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この世界で人の血肉を喰らう怪物が産声を上げた。
「始まった頃かな。日本で混乱が起きるのは今日の昼のはずだから」
とりあえず今日、不運な死を回避する為に行動を始める。んー、と伸びをしてベッドから重い腰を上げた。
自室を出て暫く進んだ最奥の部屋、いわゆる客室には睡眠薬を仕込んだおかげでぐっすりしている新がいる。
熊一頭と余裕でタイマンを張れる新だ。万が一計画に勘付かれて反対でもされたら目も当てられない。
一応外から部屋鍵をかけたが目覚めた時にドアごと壊される可能性があるので、起きないことをただただ祈るしかない。それほど新は規格外である。
少しの罪悪感と、これからすることへの億劫な気持ちを持ち合わせながら部屋を出た。
レッドカーペットの敷かれた廊下を歩き、高速エレベーターに乗り込む。行き先は最上階──屋上だ。
着いた瞬間ブォッと吹き荒ぶ風に視界が狭まる。なんとか足を進めたどり着いたのは白い機体。自家用ヘリコプターである。
乗り込んで準備を完了すると、操縦士が目的地まで直行してくれる。費用は全て親名義なので、お金についてだけはあのクズな父親に感謝しても良い。
もっとも、明日には動く屍になっているかも知れないが。
「到着いたしました」
「一時間もしないうちに戻るので」
「お待ちしています」
関わりたく無いのだろう。一言返すと操縦士はそそくさと中へ戻って行った。
こんな真夜中に自家用ヘリ使う金持ちのボンボンなんて厄介な人間に決まっている、大方そういったところか。自分が相手の立場だったとしても全く同じことを考える。
「さて、と。生きる為にはしょうがないし」
寂れたショッピングモールの前、持ち込んだバールを振りかぶってチェーンを破壊する。ガシャンッと盛大な音を立てて取れたそれを足で蹴って退かすと、先程まで封鎖されていたゲートへ簡単に侵入出来た。
「運はこちらに味方した、と言っても良いのかなコレは」
目と鼻の先、ソレは下半身が無いというのにも関わらず地を這りこちらにやって来る。先程の音に反応したのだ。
格好の獲物とばかりに腕力を駆使して襲いかかってくるそいつに照準を合わせた。
「ま、貴方の運が悪かったってことで」
ゲーム設定におけるゾンビの弱点は頭。とは言ってもド素人がこの物騒な武器を扱いきれるはずもなく。となれば乱射だ、と近づく隙すら残さず引き金を引き続けた。
金に物を言わせて取り寄せた銃二丁である。バレたら牢屋行きとか言ってられない。一週間も経たないうちに世界中で人間による命の駆け引きが始まるのだから。
何分、何秒経っただろうか。銃煙と腐った血肉の匂いが漂う空間は少々居心地が悪い。
弾を撃ち尽くしてなお地面でもがくゾンビに呆れ半分にバールを振りかざした。何度も、何度も。
ビシャッと飛び散った血に眉を顰めながら。
思いの外呆気ない終わりを知らせたのはピロリンッと頭の中に響く通知音だった。
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「……帰ってシャワー浴びないと」
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