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始まり
『ステータス』
唱えた瞬間、視界に半透明のウィンドウが現れた。手を伸ばしてもすり抜けてしまうそれにどんな仕組みなのか不思議に思いながら目を通し始める。
【名前】 斉藤 涼
【職業】 ▼選択可能
【称号】 3rd Hunter
【レベル】 1
【スキル】 武器・斧補正
魔法・なし
精神・なし
【ユニークスキル】 ▼トレーダー(5pt)
【可視化】 OFF
深夜の頑張りで目的にしたもの、それが称号に表れているのを目にしてひとまず息をつく。信号待ちをしている車内は物音ひとつない静けさで満たされていた。
“3rd Hunter”
世界で三番目に怪物を倒した。記憶に違わなければそういう意味だったはずだ。この称号は百番目まであり、ユニークスキルが得られると同時に成長補正がつく。
正直早い者勝ちなところがあるから急いだのだが、既に二人ゾンビを倒していることに苦笑いが浮かぶ。
やはり1stと2ndは超えられないか。
こっちは銃とパールで下半身すらないゾンビにあんだけ手間取ったというのに。事前情報無しでどうやってゾンビを倒したのだろうか。
ゲームでは主人公である新を差し置いて最強説がとなえられていた二人。結局正体は明かされず、次回作での登場をファンは心待ちにしていた。
不確定要素は純粋に面倒だと感じる。出来れば関わり合いになりたく無いが、どこの誰かも分からないと避けようもない。運営も姿絵ぐらい出してくれても良かったのに。
「到着いたしました」
「ありがとうございます。新、起きて」
運転席からの声で一気に現実へ引き戻された。
横で爆睡中の新に声をかけると寝ぼけ眼でこちらをじっと見ている。……まだまだ眠いのだろうが着いたことには起きてもらわないと。
猫騙しの要領で勢いよく両手を叩くと、暫くののちに新はもそりと動き出した。車外の日差しが眩しかったのか、眉を顰めながら降りると新は一言ぽつりと漏らす。
「学校だな」
「学校だよ。まだ寝惚けてんの?」
「なあ」
ふと、真剣な眼差しを向けられて立ち止まる。
……何かに勘づいた?
ありえない筈のことを想像して、喉がごくりと鳴った。
──俺、
「歌のおにいさんになる夢を見た」
「……嬉しかったんだね」
「ああ」
「よし、学校行こう」
飄々とした顔でそんなことを言うから真面目に受け取るのも馬鹿らしくなり、腕を引っ張ってそそくさと校舎の中に入った。
寝起きの新はたまに変な奴になる。今の今まですっかり忘れていた自分が馬鹿だった。
事件の始まりは、大胆かつ衝撃的なものだった。
不審な男が校門に入って来る。
窓際で机を突き合わせ弁当を食べていた生徒が、その場面を見て怪訝な声を上げた。
「……アレなんだ?」
「え、ヤバ。コスプレしてんじゃん」
「結構リアル」
「ゾンビ? クオリティたっか」
「動画回そーぜ」
「ねえ、竹センが話しかけに行くみたい」
「おーい、お前らも見ろよ!」
鬼の学年主任と恐れられている竹下先生、通称竹センが不審者に話しかけるのを見に、わらわらと窓辺に生徒達が集まった。
「あ」
そんな声を漏らしたのは誰だったか。一瞬の沈黙が教室に広がった次の瞬間、絹を裂くような叫び声が上がった。
「なんなのアイツ? 気持ち悪いっ」
「竹セン噛まれてんじゃん……」
「ちょっ、泡吹いてんだけど……え?」
「ドッキリでしょ。普通に考えて。じゃねえとおかしいって」
唸るような声を上げ、首に噛み付いてきた男と揉み合う竹セン。しばらくして、彼は大量の血を流しピクリとも動かなくなった。
白目をむきながら泡を吹き、血を垂れ流す教師の姿。
そのあまりの生々しさに生徒達の緊張はピークに達する。
日常とはかけ離れた光景に吐き気を催す生徒や、警察を呼べと怒鳴り声を上げる生徒。茫然自失といった様子で床に崩れ落ちる生徒まで、教室内は阿鼻叫喚の様相を呈していた。
一人の女生徒が、か細い声を上げた。
「アイツ、こっち見てる」
続いて男子生徒が泣きそうな声で外を指さす。
「た、竹セン。動いてねえか?」
重い重い沈黙が、再び教室中に広がった。
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