友人

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 二階までの階段を一気に駆け抜けた僕らは、後ろから我先にとやってくる生徒達を避け、廊下のすみに寄った。 「で、涼君は説明してくれるんだよね?」 「俺っちも気になる〜。あっ、もしかして鬼ごっこでも始めたとか?」 「……ちょっと、待って」 「涼、疲れたのか?」  なぜ君達は息切れすらしないんだ。壁に寄りかかって息を整える僕とは対照的に、三人は涼しげな顔でこちらを見ていた。  基礎体力の差とはいえ、自分も高校生男子の平均ぐらいには体力がある。  周囲では廊下から階段を全力ダッシュした弊害で同じように息を切らす生徒諸君の姿が見うけられるので、やはりおかしいのは三人の方だと思うが。    新については日頃鍛えているのを知っているので分からなくもないが、ゲームで早々に死んでしまった上原と十田のスペックは未知数だ。  が、当初の想定は軽く超えているかもしれない。これが嬉しい誤算であってほしけど。        「これ見て」  ポケットから取り出したスマホを見せると、上原は顔を引き攣らせながら「マジで?」と声を漏らす。  その横で新と十田も自分の携帯を取り出して画面を凝視し始めた。 「世界中で死体が動く現象? ……グロいなこの写真。なんで無修正なんだろ」  険しい顔をしながら呟く十田がさらに下にスクロールしていくと、ある記事を目撃してピタリと止まる。 「国が暴動で壊滅状態……?」  画面には見慣れぬ異国の地が映っており、遠目からではあるが先程のグロ写真と同じような人間達が街中に溢れかえっていた。 「和人、これも見てみろ」  呆然とする十田に新が一つの画像を見せた。 「は」 「うえぇ、グロ。てかそれ学校の近くじゃん?」  白目を剥いた明らかに顔色の悪い血濡れの男がアスファルトの上を歩いている。手には誰とも知らない人間の腕を引きずりながら。  男がいる場所に見覚えがあったのか、上原は絶句する十田の横から画面を覗き込んで嫌そうな声を出しながら顔を歪めた。  三人の間に沈黙が広がったところで僕はスマホを見せ淡々と告げる。 「朝から数件SNSに似たような投稿が上がってた。半信半疑だったけど、これ。丁度さっきテレビニュースが追いついたらしい」  動画内では、アナウンサーが繰り返し建物内から出ないよう避難勧告をしている場面が映されている。 「つまり、涼はソレとさっきの騒ぎが関係していると思ったのか」 「そう。だから──……」  先程から警戒していた東階段に顔を向ける。  恐らく最後であろう生徒が泣きながら走り抜けてくると同時に、気味の悪い呻き声のようなものが耳を掠めた。 「防火扉閉めてくる」 「え」 「涼ちん?」 「涼?」  階段に着いたとき、ヤツらは既に二階へと繋がる段を半分程這い上ってきていた。  こちらを認識した途端、若干速度が上がった気がしたがそれには目もくれずボタンを探す。  たしかここに……あった。五秒長押しすれば閉まるはずだけど。  万が一不備によって作動しなかった場合のことを考えながら、迫り来る足音と声に少し体が震えた。  ここで死んだら、昨日からの自分の努力が報われない。それはあまりにも滑稽で、想像しただけで笑ってしまいそうだなのだ。  腹に力を入れてこらえながら近づく敵達を観察すると、先にゾンビになったであろう男よりも分かりやすく竹センの動きが鈍い。  ゲームどおりだと、ゾンビは進化する。今は走るやつや火を吹くやつが居ないが、終盤になってそんな奴らが大量発生するのだ。    つまり、時間に比例してゾンビは強くなる。    ノロノロと近づく敵をつぶさに観察しながらそんな仮説を立てた。  ……機会があったら、実験してみようかな。 「ぁ゛ぁ゛あ゛」  バタン。  訓練以外で滅多に使うことのない防火扉は、まさに掴みかかられる寸前、しっかり敵との境界線を作り上げてくれた。 「セーフ」 「無茶をするな」 「あ、追いついたんだ。速いね、っと」    新の手が近づくのを避けると、背後から強引に引っ張られ頭にポンと手を乗せられた。  うーむ、なぜ撫でられているのか。  たまに考えが読めない友人に、これもその一種かと諦めて身体からふっと力を抜き、されるがままの状態になる。 「あーちん速いねえ。涼ちんも急に居なくなるからビックリしたし!」 「唐突に走り出すから、ね。鬼ごっこでも始めたのかと思ったよ」  こちらも新同様、いつの間にか追いついていた上原と十田。  二人はおちゃらけるような声とは裏腹に、先程から叩きつけるような音がする防火扉を警戒しながら睨みつけている。  ああ、ゾンビを見たのか。おかげで説明が省ける。    少し口角をあげ、いい加減鬱陶しくなった頭を撫で回す手に嫌がる素振りを見せると、意を汲んだ新は思いのほかすんなりと離れた。  四人全員が静かになったところで、まず口火を切ったのは新である。 「次は何をする気だ?」 「俺っちも手伝うよ。ヤバめな時こそ一致団結、ってね!」 「俺も、教えてよ涼君。出来る範囲で手伝うからさ」  集まった三人の視線に、僕はコクりと頷いて一本指を立てた。 「やるべきことは色々あるけど。大まかな目標としては一つ」     “僕達で、避難所を作ろう”  
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