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防火扉を大きく叩きつけるような音に生徒達が肩を揺らして怯える中、僕達四人は校内マップの前で作戦会議を始めていた。
「学校を避難所にする」
「どうやって」
十田の質問に現在地──東階段とは離れたところに位置する南階段を指す。校舎にある二つの階段のうち、今使えるのはそこだけだ。
「南階段から三つに分かれて行動しよう」
「校門と裏門、あとは例の動く死体……とでも言うつもり?」
「人数分けは? そもそもの話、あの怪物をどうするつもりだ? ニュースでは国すら壊滅してるんだぞ」
十田と新。鋭い二人は生じた疑問を口々に吐き出した。どちらも反対しているわけではなく、純粋な質問といった顔をしているのでこの作戦は及第点といったところか。
「校門と裏門は窓から見る限りまだ変な奴らが近くに居ないから一人ずつで良いと思う。さっさと行って門を閉めよう」
地味に高さと耐久性がある学校の門。閉めるだけでしばらくの間は外からの侵入を防げるだろう。
とはいえゾンビ達の力は馬鹿にならないので、数が集まると破壊されるのも早まる。一応閉めた後に少しずつ中からバリケードを作る予定だが、そんなことよりも今最も重要なことがひとつ。
「東階段前の動く死体。さっき見た限り二体居たけどアイツらをどうにかするのが一番の問題だよ」
「……どうにかするって。涼ちんはアイツらを治す方法知ってんの?」
『治す』
上原から出たその言葉に、僕は彼との価値観の差をありありと実感した。
「アレが生きてるように見える?」
「アレって……俺っち達と同じ人間じゃん」
僅かに顔を歪めた上原を見て、心のどこかで面倒に思う感情が生まれた。一般的に考えれば普通の意見を言っているのは彼の方だろう。
可笑しいのは自分。そんなのは分かっているし、だからどうしたという話なのだが、いかんせん説得に骨が折れる。
「生きてない。理性がない。人を襲う。国すら滅びた。これだけ揃っててまだそんなことが言える?」
「……」
黙り込んだ彼に悪いけど、と更に語りかける。
「アレを人間と見做すなら今回の作戦からは抜けて欲しい。僕はアレを殺すつもりだから。死にたくないなら安全なところで指咥えて待ってて」
言い過ぎただろうか。
一発ぐらい殴られるのを覚悟して放った言葉であったが、予想に反して拳を握る素振りすら見せない上原。
ほんの少しの間の後、彼は静かに口を開いた。
「やるよ。俺っちは馬鹿だけどさ、皆んなの足だけは引っ張りたくない。それに涼ちんのおかげで目が覚めた。流石に人を襲うやつを俺っちも人間とは見なさないよ」
……想定外だ。正直なところ上原が賛同する可能性は相当低いと見積もっていた。侮り過ぎたのだろうか。
「涼君が不思議そうにしてる理由、心底分かるよ」
「?」
「裕也はさ、これでいて敵対する奴には結構容赦ないんだ」
そう言って十田が上原の背中をバシッと叩くと、怒ったように「涼ちんに変なこと吹き込むなし!」と上原が叫ぶ。その様子に新は吹き出しているし、僕は今後の計画を練り直していた。
十田の言うことが確かなら、今後の予定がより楽になる。嬉しい誤算だ。
「それじゃあグループ割りだけど。表門は十田。裏門は上原。最後に例の怪物がいる東階段は僕と新で行きたい」
「は?」
「え?」
「ん?」
上から順に新、上原、十田である。何故か一人だけキレたように低い声を出した新に首を傾げた。
なぜ怒っているのだろうか。怖い顔をしてこちらを見る彼に挑発するようなことを言った覚えは一切ない。
「文句あるなら言って。……じゃないと僕には分からないよ」
ごめんと一言謝ると慌てて三人が言い寄った。
「怒ってるのは涼にじゃなくて、その程度だと思われていた自分自身に、だ」
「そーそー、頼りないって思われてんのかなって」
「涼君、俺達そんなに信用ない?」
はて、これは一体どういう意味だろうか。
「信じてるに決まってる。けど、どうして?」
──信用してないなら最初から計画なんて伝えない。
キョトンとした顔で三人を見つめると、各々が僕のことを見てため息を吐いた。
「涼が怪物の方に行くことを選んだのが一番苛つくな。あんなヤツら俺一人でもどうにでもなる」
ポキ、と首を鳴らして凄む新に主人公の貫禄ここに極まれりとでも言うべきか。実際、ゲームではあの二体のゾンビを難なく素手で倒したのだから言葉の通りではあると思った。
「俺っちも和ちんも結構動ける方だよ? あからさまに危険な方に涼ちんを行かせるなんてありえないっしょ」
「そうそう。むしろ俺も裕也もそっち行く気満々だったしね」
上原と十田の堂々とした様子に改めて規格外な友人達だと感嘆の念すら覚えそうである。
とりあえず、やる気にみなぎる三人に落ち着くよう静かに口を開いた。
「僕が裏門。十田は表。新と上原が東階段」
言って顔を上げると、まだ微妙そうな顔をする三人がいた。……今度は何だろうか?
「怪物は俺一人でいい。涼は裕也と一緒に行け」
「さんせー。あーちんは一人でも良いけど涼ちんは一人にしたくないな。俺っちが守るよ!」
「涼君一人は駄目。大人しく言うことを聞いて二人で行動してほしいね」
「俺と裕也と和人の意見で三対一。……決まりだな?」
こうして、グループ割りは表門に十田、裏門は僕と上原。ゾンビには新一人という分け方になったのである。
……三人とも僕に対して過保護すぎやしないだろうか。
湧き出た疑念は口の中で噛み殺した。
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