友人

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「涼ちん、ちょっとやばげかも」  裏門から約五メートルの位置に、五体のゾンビ。 「体育倉庫行って良い感じの持ってくる」 「……良いもの?」 「うん。叩けるやつ」  説明する時間も惜しいと上原の腕を引いて歩く。    フェンスで囲まれたグラウンドの一角。  比較的新しい灰塗りの建物に着くと、ガタンと音を立ててスライド式の扉を開いた。  わずかに舞ったホコリを手で払い除けながら跳び箱と平均台の間にあった木刀を四本、手に取って二本分上原に明け渡す。 「はい」 「わ〜……ありがと〜?」 「? どういたしまして」  はて、お礼を言われることなんてしたかと、生じた疑問にとりあえず常套句を返して、再び上原の手を引いた。  準備は終わったのだから、目指す場所は一つ──裏門である。   「上原、躊躇は要らないよ。死にたくないなら」 「うーむ。……これやっぱ、俺っち達が木刀で戦う感じ?」 「そう」  頷いてから両手に持っていた木刀を土の上に置く。この二つは言うまでもなく新と十田用だ。視界の右端、じーっと門を見て固まっている上原に右手を伸ばす。  首を傾げられた。……そっか、説明不足か。 「木刀、一本パスして」 「あ、は〜い」 「ん。……じゃ、ちょっと待ってて」 「らじゃ〜?」  上原といると力が抜けるな。ふにゃっとした語尾に少し調子を狂わされながら右ポッケにしまっていたブツを取り出す。  固い感触と中の液の音を確かめて、僕はサングラスとマスクを着けた。  背後で上原の驚きの声が聞こえたが無視である。自分の格好のおかしさは自分が一番わかっているのだ。 「おーにさん、こっちら。てーのなーるほーうへ」 「……めっちゃ棒読みじゃん」  気にしない気にしない。両手をパンパン叩きながら常より声を張ると、鈍い動きでゾンビが近づいてくる。  門の前、二メートル程のアスファルトに奴らが足を踏み入れた瞬間、バシャアッ! と勢い良く液体を散布した。  三体、運良く顔面直撃に「おー」と後ろからのんきな声が聞こえる。結構余裕だな。 「上原、転がってるやつ無視で残り二体をやろうか」 「俺っちの番か〜。……なんかもう勝手に弱ってるけど」  例のブツ──真っ赤なジョロキアソースをかけられて、床にうずくまり悶え転がるゾンビ三体と、液体の触れた部分を掻き毟る残りの二体。  その全てがこちらを見ていない。  昨夜家に取り寄せたデスソース。大量にリュックに詰めてきたそれを試しに一本使ってみたが、十分な効果が得られて気分は上々だ。 「実験体が欲しいな……」  一方その頃。  木刀片手に薄っすら笑みを浮かべた友人を見て、上原の背をゾッとしたものが駆け上がる。  ──スッゲェ楽しそ〜。……やっぱ涼ちんとあーちんだけは敵に回したくないかも。  ぎゅっと木刀を掴む手に力を入れて、頼もしいにもほどがある自身の友人に、上原は肩を並べたのだった。
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