4.「ご臨終です」

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4.「ご臨終です」

 その電子音が鳴り出した途端、それまで揉めていた男たちは一斉に口をつぐんだ。モニターの心電図の線はフラットになっており、心拍数を表す数字はゼロになっていた。ご臨終だ。 「親父さん!」  アーノルドが慌てて駆け寄る。デズモンドも後に続き、ナースコールを押して看護師を呼んだ。死神は死んだ男の口から魂がゆっくりと出てくるのを見て慌てた。 「ちょっと失礼」  男の名前を呼んで揺さぶるアーノルドを押しのけて、魂を回収しようとするが、すごい剣幕で引き戻された。 「おい! 貴様、本当に何なんだ! 刑事さん、この男なんとかしてくれ! 仕事だろ!」 「こっちもそのつもりだ。分署のハミルトンです。関係者でないなら今すぐ出て行って下さい」 「いえ、ですから、本当にわたくしのことはお構いなく」 「構わずにいられるか! あんた、今がどんな状況かわかってるのか!」  その時、ひっそりとドアが開いたが、白熱した男たちはすぐに気付かなかった。気付かなかったと言うか、その人が白衣を着ていたので、人間の男二人は医師か看護師が来てくれたと思って、不審者を追い出すことに本気を出し始めた。死神は背を向けていて見えていない。白衣の女性が死んだ男の顔を覗き込む。 「まあ、大変でしたね」  声を聞いて、アーノルドの方がはっとそちらを向いた。死神も、その声は聞き覚えがある。デズモンドが二人の反応を訝りながらも、同じようにベッドサイドに立つ彼女を見た。  それは、アーノルドを廊下で捕まえて、首領の死が近いと言ったあの看護師だった。死神もその様子を見てすぐにピンと来た。あの女は……。 「天使……」 「時間が掛かりすぎですよ」  彼女はちょっと死神を睨み付けると、男の身体を離れ始めた魂に手を差し伸べた。魂はふわふわと彼女の方へ寄ると、その腕に抱き留められる。天使は魂を抱きかかえたまま、窓際まで歩いて行くと、その背中から翼を生やし、窓から外に飛んで行った。 「な、なんだあれは……」 「さあ……?」  人間二人はぽかんとしてそれを見送った。死神はがっくりと肩を落とし、エコバッグを畳んで懐にしまう。  本日何度目かのドアの開閉が行なわれた。今度こそ本物の医師と看護師が飛び込んでくる。医師はベッドで口を半開きにしている男の首に手を当て、ペンライトを目の前で振ったりしている。やがて、ライトを胸ポケットに納めると、 「残念ですが、ご臨終です」  しかつめらしい顔で告げた。そりゃそうでしょうね。天使も来てたしね。アーノルドは泣く気にもなれず、病室に入った時には人の一生と言うものに思いを馳せていたデズモンドも、厳かな気分を台無しにされた。死神は仕事を取られてとんだ恥さらしだ。男三人は、それぞれ違う意味で渋い表情を浮かべたのだった。
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