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黒川 美鈴 Ⅰ
「それでは登場していただきましょう! 黒鈴みわか先生です!」
とある書店の一角に設営された簡易的なステージ、その背後にある壁には『黒鈴みわか サイン会』の文字がぶる下がっている。司会者に名前を呼ばれ私はその簡易的なステージに足を向けて歩いていく。人前に出ていく事が苦手なわたしは嬉しさ半分憂鬱な気持ち半分の面持ちでいた。
そう私は物書きなのだ。それもこういったサイン会を催すとそれなりの列を作る事が出来る程には名が知られている。
ステージ上では訪れていただいた読者にサインをしていく。書いているサインは実はペンネームで、本名である黒川美鈴のアナグラムであるがそれは公表していない……。サインをした単行本を渡し握手をし、激励の言葉を頂く。読者は一様に嬉しそうにしており、私としてもありがたい事で感謝する気持ちも当然あるがどこかこの人達は本当に喜んでいるのだろうか?と穿った気持ちも持ち合わせていた。
「いやー、大好評でしたね! ご苦労様です。先生も疲れたんじゃないですか?」
「えぇ、まぁ……」
「つれない返事だなー、ハハハ。まぁ先生らしいですがねっ! お疲れ様でした。また宜しくお願いしますねー」
控室で帰り支度をしていると私の担当者は素っ気無い私の対応をいつもの事だと言うように笑いながらその部屋から去っていった。人付き合いの苦手な私は申し訳ないなと思いつつ見送った。
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