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どうしようと困り果てていると男子が紙の存在に気付き、ひょいとその紙を拾い上げてしまった。私は更に焦った。――あぁ、綾ちゃんの絵を見られてしまう。綾ちゃんは怒るだろうか?
困りながらも黒板に目を向けた時視界の端に男子の震える肩が目に入った。――あれっ?
男子をよく見直してみるとやはり肩が震えていた。手元には私が落とした紙があり、やがて私は男子が笑いを堪えているのだろうと分かった。絵を見られてしまった気恥ずかしさと、綾ちゃんの絵はやはり面白いんだと誇らしい気持ちが入り混じった複雑な気持ちになった。
そうこうしていると授業の終わりを告げるチャイムがなった。授業の締めの言葉をアンコウが告げて教室を後にするとすぐさま後ろを振り返り綾ちゃんへ謝ろうとした。
「綾ちゃんごめん……。あの紙うまく受け取れなくて落としちゃったんだ。多分男子に見られちゃったと思う……」
「別に大丈夫だよ、そんなに動揺しなくても平気だよ」
綾ちゃんは怒っていなかった。私は胸を撫で下ろしごめんねともう一度言った。
「ねー、さっきこの紙落とした?」
背後から不意にそう声をかけられ私はビクッとしてしまう。
「……あっ、そうなの。ごめん。落としたのは私なの……」
「そっか! これって黒川が描いたの?」
「あっ、いや、それは綾ちゃん……竹永さんが書いたんだ……」
私はしどろもどろになりながら答えた。普段男子はおろかクラスメートともあまり会話をしないので緊張していた。
「竹永が描いたのかー、これってアンコウでしょう? 似てるよねーかなり絵が上手いね! 俺笑い堪えるのに大変だったぜ!」
「あ、ありがとう……」
綾ちゃんは男子のその言葉を聞いて照れ臭そうに、控えめに答えていた。
すると絵を持った男子がみんなに呼びかける様にして周りのクラスメート達に絵を見せて回った。
「へー上手いね!」
「これめちゃくちゃ似てるし面白いね!」
「アンコウの感じすごい出てるじゃん!」
「誰が描いたの? へー竹永って絵上手いんだね!」
クラスメートは口々にその絵を褒め出した。綾ちゃんはそれらの言葉を聞いて居心地が悪くなったのか教室を出ようと私に言ってきた。私はそれに倣い二人で教室を出た。綾ちゃんの顔は困惑の中にどこか嬉しそうな含みを帯びていた。
「ごめんね、綾ちゃん……。私が紙を落としたばかりにこんなに大事になっちゃって……」
「気にしないで、美鈴。いきなり大勢が集まってきたからびっくりしちゃった……。でもみんなが私の絵、上手いって言ってくれたからちょっと嬉しいな」
綾ちゃんはやはり絵が褒められて嬉しかったようだった。その時私は若干の違和感を感じてしまった。
――みんなに注目されるなんて嫌じゃないのかな?私だったら結構嫌だな……。
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