黒川 美鈴 Ⅳ

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 放課後になり綾ちゃんと一緒に教室を出て校門を後にする。歩きながら私は緊張していた。これからつくウソはうまくいくだろうか?綾ちゃんの心を動かす事が出来るだろうか?そうして下校路にある公園へ綾ちゃんを誘った。 「ちょっと公園で話しでもしていかない? 最近じっくりあまり話す事も減って来たからね」 「公園かぁ懐かしいね! 昔はよく来たよねー」  そういって二人でベンチに座った。私は用意していたウソを口にする準備をした。 「綾ちゃん最近どう? クラスのみんなと楽しくやってそうだけど面白い?」 「最近かぁ、楽しいよ! クラスのみんなはいい子ばかりだし。こないだまでうまくなじめなかったけど……きっかけがあれば簡単な事で、自分で変に意識していただけだったのかなぁ?」 「楽しいのかぁ……それは良かったね!」  私は努めて明るく感じられるようにそう言った。 「本当は美鈴も一緒に交じってくれれば私ももっと楽しいんだけどね……。美鈴はそういうの苦手そうだから無理強いするのも悪いなって思って……」 「ははは、確かに私そういうの苦手だから……。」  ――ウソだ……。綾ちゃんは気を遣って言っているだけだ。本当は私の事なんてどうでもいいに決まっている。  私は口をギュッと結び、次に発する言葉に力を込めるようにした。そして口を開く。 「綾ちゃん、あのね……。私、綾ちゃんが楽しそうにしているのを見ているのが辛いの」 「えっ、どうして……?」 「実はね……私聞いちゃったんだ……本当にたまたまなんだけど。私が教室で本を読んでいて綾ちゃんがトイレに行っている間のみんなの話をね……」 「みんなの話? えっ……それってどんな?」 「詳しい内容までは聞こえなかったんだけど……何かムカつくって……」 「ムカつく? 私が?」  綾ちゃんの顔はみるみる青ざめていく。その反応を見て私は更に言葉を続けた。 「そうなの……チヤホヤされちゃってとか、調子に乗ってるとか、ちょっと前までは誰も相手してなかったのにとか……」  私は言葉が止まらなかった。既に悪口を言われているウソという体裁を忘れて、自分の思いを次々に口にしていた……。 「もうやめて!」  ハッとした。綾ちゃんが涙を流しながら耳を押さえていた。私は喋っている内に我を忘れてしまっていた。綾ちゃんがこんなに取り乱している事にも気付かずに……。 「もうやめて……、お願い……。もう分かったから……」  綾ちゃんはそう言うと崩れる様にうずくまり、そして震えていた。自分の不満をウソという言葉に乗せて吐き出してしまった……。綾ちゃんがここまでダメージを受けるとは思っていなかった。しかし、不思議と罪悪感は無かった。綾ちゃんには私がついているし、今までの平穏で楽しい日々に戻るだけだ。綾ちゃんも今はショックを受けているがいずれ前の様に戻るだろう。そう思い込んでいた。 「綾ちゃん、大丈夫……? ごめんね。本当は私もこんな事言いたくなかったんだよ」 「…………」 「だけど私は綾ちゃんがとても大切なの……。大切な綾ちゃんが傷ついていくのをみるのが辛いの……。大丈夫、綾ちゃんには私がついているよ……」 「……美鈴……」 「また前みたいに二人で楽しく過ごしていこうよ!」 「……美鈴……ありがとう……」  私はうずくまる綾ちゃんの背中を優しくさすりながら言葉をかけた。綾ちゃんは震わせていた体を徐々に落ち着かせていた。 ――これで綾ちゃんは私の元に戻ってくる。  私はホッと胸を撫で下ろし安堵に包まれた。そして、その後も綾ちゃんの背中を優しくさすり続けた。  
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