黒川 美鈴 Ⅴ

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 私は痛くなった頭をさすりながら考え込む。自分のウソがここまで影響を与えているはずがないと思いたい自分に対して肯定する根拠を見出す事が出来ない。 ――影響を与えてないなんて事はあり得ない。私は綾ちゃんの心の推移は推測出来ているはずだった。そう……、私は綾ちゃんをモデルにした小説を書いたではないか。私が脚光を浴びる事になったあの小説を……。  おそらくあの小説に書いた様な心理の流れがあったのだろう。そう考えた方が自然だ……。私がついたウソは綾ちゃんの高校時代を台無しにしただけではなく、犯罪者にもしてしまったのだ。  今までも心の奥底に沈殿していた罪悪感が一気に掻き回され、私の心全体を濁らせていく。私は強い後悔の念を抱いた。 ――私があんなウソさえつかなければ。綾ちゃんを独占したいなんて思わなければ……。  目は開いているものの、そこに映る景色が頭には伝達されずに暗闇を映し出す。その暗闇を振り払うかの様に頭を左右に振る。視界は徐々に景色を映し出したが、今度はその景色が滲んで歪む。私は涙を流していた。涙はどんどん溢れ頬を伝う。その流れを止めるかの様に空を見上げる。そこにはまたしても暗闇があった。私はしばらくその暗闇に目を向け再び強く思う。 ――あんなウソつくんじゃなかった。  しばらくそうしていた……。いつしか上を向いている顔に何かがポツリポツリと当たってくるのに気付いた。雨が降り始めていた……。私はそれに気付くと涙を拭いて重い足取りで歩き出した。  ここはどこだろう……? 強さを増した雨の中をしばらく歩き、ある程度落ち着いてきた時にふと気付いた。私はラジオを聞いた後にタクシーを飛び降りたのだった。その為自分のいる場所がどこか分からない。私は見覚えがあるものがないかキョロキョロしながら歩いていた。その頃にはだいぶ落ち着いてきており、雨に濡れた体が体温を奪っている事を感じていた。体は震え出しそうになり私はどこかに入れる店はないかと見回す。すると暗がりの視線の先に一件のカフェらしき建物を見つけた。  近づいてみると落ち着いた茶色の木壁のカフェだった。雨が凄くなった為飛び込むようにシェードの下に潜り込む。古びたドアには『WB LIE』の看板がぶる下がっており、私はドアハンドルに手をかけゆっくりとドアを開けた。
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