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その後特にやる事も無くなってしまったので、もう一度散策に出てみようかと思い、所長に提案しようと声をかけようとしたその時だった。不意にWB LIEの扉が開かれた。
開かれたドアから姿を現したのは一人の女性だった。雨に降られたからであろう体は濡れていた。濡れた体が体温を奪っているのか顔は青ざめている。一目見て辛そうにしているのが分かる。
「こちらにどういった御用でしょうか?」
かしこまった言葉を里佳子さんが発する。
「ちょっと雨に降られて体が冷えてしまって、温かいものでもいただこうかと思いまして……。ここはカフェではないのですか?」
女性はカフェと間違えて入ってきてしまったようだ。以前里佳子さんが言っていたように間違えて入ってくる人は本当にいるようだ。
「すみません。こちらはカフェではないんですよ。良く間違われてしまうんですよ」
「そうですか……。外観がカフェに似ていたもので……。間違えてしまって申し訳ございません」
里佳子さんがカフェではない事を伝えると女性は謝罪をして事務所から出ていこうとしていた。そこで、不意に後ろから所長の声が聞こえてきた。
「あの、もしかしたら何かお困りですか? 失礼ですが、何かあったかの様なお顔をしておりますよ?」
「……、えぇ……。いや……、何でもありません」
「……そうですか? もしかしたら何か強い後悔でもしているのではないかと思ったのですが、思い違いですかね。これは失礼致しました」
所長はそれ以上深く追及するのをやめて女性に軽く頭を下げた。女性の方は何か煮え切らないような表情をして佇んでいる。
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