WB LIE Ⅱ-Ⅲ

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 僕から見ても何かを抱えているように見えたので、所長がすぐに言葉を取り下げた事を意外に感じた。僕は少し食い下がってみようと女性に話しかけてみる。 「でも、やっぱり何か辛そうにしているように見えますよ? 本当に大丈夫ですか?」 「……、まぁそうですね……。少し気にかかる事がありまして……」 「だったらお話聞きますよ? コーヒーくらいお出しできますし。ねぇ、所長?」 「えぇ。何か後悔を抱えているようでしたらそちらのソファーへどうぞ……」  そう言って所長は自らはソファーの方へ歩を進める。女性はどうしようかと逡巡しているかのように立ち尽くす。自分自身でもここで自分の話をするべきかどうか判断がつかないのであろう。そこで里佳子さんがすかさずコーヒーを用意する為お湯を沸かし始めた。 「よろしかったら……。お湯ももう沸きますし、どうぞ」  ソファーの方へ手を伸ばし女性を促している。女性は里佳子さんの言葉にようやく意を決したようにしてソファーへ向かっていく。ソファーの対面には所長が腰掛ている。女性がソファーへ腰を掛け、間もなくすると里佳子さんがコーヒーをテーブルの上に用意する。そして女性は小刻みに震える両手でコーヒーカップを覆うように持ち、コーヒーを口に含んだ。 「どうです? 少しは温まりましたか? 雨に濡れると体が冷えて困りますよね」 「……そうですね」 「私この事務所――WB LIEの所長をさせていただいている梨田と申します」  所長はそういうと以前僕にも渡してくれたように名刺を女性に渡した。そう、名刺には『後悔しているウソはありませんか……』と記載されている。  この女性が依頼者であればその言葉に反応するはずだ。もしかして所長は依頼者であるかの確認の意味も込めて名刺に例の文言を入れているのではないだろうか。 「あっ、ありがとうございます。私は黒川……黒川美鈴と申します」  女性はそう言いながらバッグから自分の名刺を取り出し所長に渡していた。しかし、その名刺には『黒鈴みわか』と記載されていた。所長が名刺を眺めながら訝しげな表情をしていると、女性もそれに気付きはっとした表情になる。 「あっ。すみません……。それは仕事用の名刺でした。私、実はその名刺の名前で作家をしておりまして間違えてそちらの名刺を渡してしまったようです」 「なるほど。そういう事でしたか。では我々は黒川さんとお呼びすれば宜しいですか?」 「えぇ……そちらでお願いします。あの、ちなみに梨田さんのお名刺にある『後悔しているウソはありませんか……』というのはどういった意味でしょうか?」 「あぁ、それですか。それはですね――」  所長がその言葉の説明している横で僕は里佳子さんに耳打ちをした。 「里佳子さん、あの黒川さんって作家さんだって言っていたじゃないですか? 実は僕が今読んでいる文庫本の作者さんっぽいんですよね」 「えっ、結構有名な方なの?」 「結構有名ですよ。里佳子さん本読まなそうですもんね」 「君、馬鹿にしているでしょ? まぁあまり読まないけど……」
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