黒川 美鈴 Ⅷ

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 綾ちゃんだけが楽しく過ごしていくなんて間違っている。私の元へ戻って来ないのであれば過去をやり直しても意味がない。やはり過去なんて変える事は出来ないのだ。私は当時と同じく再び決心した。 ――またウソをつこう。  ただし、今回は綾ちゃんがどうなってしまうかの結末を知ってしまっている。ウソをついても綾ちゃんは私の元には返って来ない。つまり、今回のウソは綾ちゃんを傷つけるだけのウソ……。私はそれでも良いと思った。 「変な事言ってごめんね。綾ちゃんが心配してくれているのが良く分かったよ。ありがとう……。もう大丈夫だよ」 「良かった……。美鈴がそう言ってくれて本当に嬉しいよ。美鈴も一緒にみんなと仲良くしていこうね!」  既に再びウソをつくと決心した為、その場を繕うように綾ちゃんに合わせた会話をしていった。学校に着いたあとも極力笑顔を作り綾ちゃんと接した。授業中は上の空で、当時ウソをついた状況を思い返していたりしていた。あの時綾ちゃんは体を震わせながら泣いていた。またあの状況を作り出そうとしている。不登校、転校、そして犯罪……、転校してから綾ちゃんがどんな人生を過ごしていったのかは知らない。ただ、私が書いた小説のような感情の経緯があったのだろうとは予測がつく。  私の一つのウソで再び同じ人生を歩んでいく。その決定権を私が握っている。身震いする気持ちもある……。それでも私の決心は揺らがない。これは綾ちゃん自身が引き起こした事だから……。  学校が終わり私は足早に帰宅する。過去にいる事ができる時間もそこまで残されていないし、あと私がやるのはウソをつくだけなのだから。誰かと接しても意味がないのだ。
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