WB LIE Ⅱ‐Ⅴ

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「黒川さん、聞いて……」  突然背後から声がした。その声は悲しみが混じった音であるが、どこか優しさも感じられるものだった。振り返ると里佳子さんが僕の握っているスマートフォンを真っ直ぐ見据えていた。 「あのね、それはご友人の、黒川さんに対する愛情だと思うのよね……」 「愛情? そんな訳ないわ! きっと厄介者だと思っているわ」 「そんな事ない!」  反論する黒川さんに対して、里佳子さんは急に声を荒げた。電話口の向こうで黒川さんが口をつぐむのを感じた。 「いいえ……私には分かるの」 「……っ、な、なんでそんな事が分かるのよ! あなたに綾ちゃんの何が分かるっていうのよ!」 「経験があるのよ、私にも……。似たような経験がね」 「……」  意外な言葉が里佳子さんから飛び出した。驚きのあまり里佳子さんをじっと見てしまう。黒川さんも言葉を止め、次の言葉を待っているかのように感じる。 「私は黒川さんとは逆だった……、ご友人の――綾さんと同じ立場だったの」  里佳子さんはゆっくりと話し始める。その表情には辛い気持ちがにじみ出ているようなにも見え、言葉を絞り出すといった感じだった。
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