WB LIE Ⅲ

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WB LIE Ⅲ

WB LIE III  所長の話を聞いて僕はつい数日前に起こった出来事を思い返していた。最愛の人を亡くした。その原因の一端に自分のウソが関係している事を。希美をつらい決断に導いてしまったあのウソを。自分が不安や悲しみを請け負えば希美を楽にしてあげられるといった傲慢なあのウソを。  僕は胸を締め付けられる。本当にウソを無かったものに出来るのだろうか?無かったものに出来たとして希美は自らの死を選択する事なく、どれだけ長くかは分からないが少しでも長く生きていく事が出来るのだろうか?僕は揺れていた、こんなにも重大な事を見ず知らずのこの中年男性に話して何か変わるのだろうか?しかし、本当に僕の後悔のウソを引き取ってくれるのであれば……希美は……。  ――僕は藁にもすがってみる事にした。結果が変わる可能性が一ミリ程でもあるならばすがりたい。そう思ったのだった。 「あります……僕は後悔しているウソを持っています」  所長は目尻を下げ微笑みを携えて優しい表情をしていた。僕の後悔をそっと包み込んでくれるかの様な顔だった。 「そうですか……それはお辛かったでしょう。実はね西島さん、このWB LIE にはもう一つ不思議な事があるんです」 「もう一つ不思議な事?」 「このWB LIE はそういった後悔のウソをお持ちの方が――強くそのウソをなかった事にしたいと思っている方がいるとその方の近くに出現する様になっているんです」  僕がどういう事だろうと逡巡していると、所長は更に言葉を続けた。 「つまり、西島さんの様な方が強く強くご自身の願望を抱いた時に――いわばそんな強い気持ちがこのWB LIE を呼び寄せているといってもいいでしょう」 「だから、私達は君を待っていたって事になるんだよ、寛太君!」  里佳子さんは両手を前へ突き出して歓迎の意を表しながら所長のあとを繋ぐ様に言葉を続けた。所長も強く頷いている。  僕はとても心強さを感じた。このWB LIE に託してみよう。僕と希美のストーリーはもうちょっと続ける事が出来るかもしれない。そう思った。 「まぁ、君がなかなか来なかったからカフェと間違えて何人かこの事務所に来ちゃったんだけどね……」  里佳子さんは悪戯っぽく笑いながら茶化す事も忘れていなかった。  それから所長にウソをなくす為の細かいルールの説明をいくつか受けた。それによるとおおまかにはこうだった。 ・ウソを無くす為にその過去へタイムリープする ・ウソは消滅するまでに七十五時間かかる ・七十五時間は過去にいる事が出来る ・過去にいる間の行動で現在が変化する ・七十五時間経過後は現在に戻ってくる ・七十五時間後から現在までの記憶は保っていない 「そんなに複雑では無いと思うのですが、いかがですか?」 「そうですね……大体は理解しました。この75時間の間は過去で、その当時の人間として過ごすんですよね?」 「ええ、ウソがなくなる事を定着させる時間となります。この世界にあったモノを無くすのですから多少の時間が必要になるわけです」  それもそうかと思った。しかし七十五時間、約三日間。この時間数に何か意味があるんだろうか?僕は聞いてみた。 「まぁ、人の噂も七十五日って言うじゃないですか。それにウソを無くした後の調整といいますか、その間にまた後悔する事ないよう行動する事が出来るのです」 「そうよ! 後悔の過去から成り立っている現在をより良いものにする為って感じかな!」  つまりウソを無くした後の行動いかんで現在を変える事が出来る。逆を言えば変えたくなくても変わってしまうという事だ。  現在を変える事が出来るとして、その七十五時間であれこれ手を尽くす。そして、七十五時間経過後は現在に戻ってしまう。その間の自分の記憶は現在において改竄されるのだろうか? 「あっ、もう一つ確認してもいいですか? 過去での七十五時間経過後に現在に戻ってくるわけですよね? 現在に戻ってきた時は七十五時間経過時までの記憶はあるけど、七十五時間後から現在までは記憶がないのでその間何が起きていたかは分かりえないって事ですか?」  その答えはこうだった。現在に戻った時は過去に戻ってからの七十五時間分の記憶は保ちつつ、あとは今現在の記憶しかないという事だった。 「要するに君は浦島太郎になるんだよ! 戻って来たら世界は変わっちゃってる。でも変化した事をみんなは知らない。みんなはその現実しか知らないんだ」  里佳子さんが言うには、戻ってきた現実はどんな状況になっているか分からない、良くなっているかもしれないしその逆もあり得るとの事だった。つまり、75時間経過後の運命はどうする事も出来ない。変化に対して僕が出来るのはその七十五時間以内となる。かなり重要な時間だ。  僕はそれを聞いてもし更に悪い現実に変化してしまっていたらどうしよう、ウソを無くそうとした事自体を後悔してしまうんじゃないだろうか?その75時間の使い方を誤ってしまったら?――いや、今より悪い事態なんてない。それに今この現実が変化してくれるなら、望美を悲しい選択に導かないのであれば……さっきそう決心したばかりじゃないか。  僕は不安に覆いかぶされそうになる自分を鼓舞する様に手のひらにグッと力を込めて拳を固めた。 ――僕が望美を助けるんだ! 「説明は以上になります。それではそろそろ行ってみますか、西島さん?」 「……はい」  僕は意を決して言った。
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