虹の橋のたもとに、おじいちゃんがいた。

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天寿を全うしたペットは、虹の橋のたもとで元気に暮らし、飼い主のお迎えを待っているという。 毎日ふかふかにキラキラに元気に幸せに暮らしているペットたちを思い、飼い主はペットなき人生を全うする。 *** 理由あって死亡した私は、犬に会うべくドキドキしながら虹の橋まで向かった。 しかしそこで愛犬(名前:ベーグル/紀州犬♀/享年15歳)は、見ず知らずの若いお兄さんと一緒にめっちゃ笑顔でフリスビーで遊んでいた。 「よーし! とってこーい!」 セミロングヘアをふわふわと靡かせ、華奢なお兄さんが全力で投げる。 「わーん!」 ベーグルは尻尾を千切れんばかりに振り回し、キラキラの河川敷を走り抜ける。 私は思わず周りを見回した。 虹の橋のたもとはペットが飼い主を待っている場所。しかし飼い主は見つけたらすぐに一緒に手を取り合って天国に行くので、人間の姿はほとんど見当たらない。 それどころかお兄さんは、ちゃんと名札をつけている。 「ペット:ヤスユキ/人間♂/享年59歳」 待って。 お兄さんが私に気づく。そして驚いた顔をして手を振った。 「なんだ、お前あずさか!?」 「おじいちゃん!?!?!?!?!?!?!?!?!!?」 うちのベーグルと戯れる目の前のロングヘアのお兄さんは、なんとうちのおじいちゃんだった。 *** 「いやー。まさかあずさがこんな早く来るとは思わなかったなー」 「私だっておじいちゃんがペット枠で虹の橋にいるとは思わなかったよ」  私とおじいちゃんとベーグルは三人河川敷に並んで座っていた。  おじいちゃんの見た目は18歳ほど。神田川ブームのセミロングヘアに、ほっそいベルボトムのジーンズに胸元を大きく開けたシャツを着た男。  私の知ってるおじいちゃんは確かにおしゃれさんだったけど。まさかこんな軟派な美青年とは思うまいて。  いや。ペットって。 「おじいちゃん、なんでペット枠でここにいるの」 「そりゃ決まってるだろ。愛子を待ってるのさ」  おじいちゃんはウインクをしながらおばあちゃんの名前を言う。祖父母は生きている時はそれはもう仲睦まじい二人で、私にとって憧れの夫婦だったのだ。 「待って。もしかしておじいちゃんって」 「愛子と出会ったのはそう、SM情報誌のM男募集記事のーー」 「待って! 待って! 祖父母のそういう過去生々しく聞きたくない」  耳を塞ぐ私に、ロングヘアのおじいちゃんは快活に笑う。 「そうそう。まだお前が聞くには早い話だよ。さ、お帰り」 「え、どういうこと……」  その時。  私の元に、天国の職員さんっぽい人がやってくる。 「吉田あずささーん。脈が戻ったようなのでお帰りくださーい」 「え、えええ、」  私は体が透き通っていく。  おじいちゃんはベーグルを抱っこして、私に笑顔で手を振った。 「お前もおばあちゃんと一緒に、まだまだ人生ゆっくり楽しんでおいで。俺はまだまだ愛子を待てるからな」 「おじいちゃん……」  涙腺が緩む。ベーグルが元気にふかふかしているのも泣けてくる。  それに……その困ったように笑う笑顔は、若い姿でも確かに、私の大好きなおじいちゃんだ。 「あ、あずさ。最後に言っておく」 「何?」 「SMは危険だから、もしプレイするときはしっかり慣れたプロがいる場所で安全に行うんだぞ。たまに窒息死してこっちにくるやつもいるからな」  私は叫んだ。 「もっと違うこと言ってくんない!??!!?」
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