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少女は息も絶え絶えに起き上がろうと、いや必死に生きようと手を伸ばす。血染めの手で恵理の隣の座席の肘かけに手をかけ、立ち上がろうとしたが、血糊で手が滑り崩れ仰向けに倒れた。
身体と頭部を、容赦なく強打する鈍い音がした。
「そんな……。これからデー…ト……なの。おくれ…………」
少女は未練を口に焦点の定まらない目で、天井を見つめ動かなくなった。陽が陰るように目から生気が失われる。
――――――――――――――――――――――――――死んだ。
誰もが、そう確信する状況で乗客である一人の女性が恐怖に叫んだ。恐怖は連鎖し、バスの中は悲鳴で埋め尽くされた。
「静かにしろ!」
回転式拳銃・S&WM36を手にした男が怒鳴った。
「いいか。ちょっとでも、俺達に逆らってみろ。この女みてえに、ブッ殺すぞ!」
男はS&WM36を向け、銃口を向けられた人々は恐怖に身を凍らせた。
それは、恵理も同じだった。
先程まで、自分の隣であんなに楽しそうに話していた少女が、屍となった事実に哀しいと思うよりも、ただ恐怖に支配されていた。死んだ少女に目を向けると、恨めしそうな目で訴えている気がして目を逸らせた。
自分が死んだのに、どうして恵理は生きているの。
自分が死んでいくのに、どうして恵理は助けてくれなかったの。
自分が死んでしまったのに、どうして恵理は悲しんでくれないの。
少女の念が恵理を責める。
(なぜ、こんなことに……)
恵理は、自分の殻に籠るように肩を抱いた。買物に出かけなければ、このバスに乗らなければと後悔をしていた。
恵理が、このバスに乗ったのは、休日を利用し遠方の街へ高校の友達と買物に出て、その帰りだった。服に靴にCDとアルバイト代を奮発してのショッピングを楽しんだ後、友達と別れバスに乗ったのは夕方だ。
家に帰るまでの気だるい時間を過ごしていると、一人の少女がバスに乗って来た。白いバンダナで頭を覆うように巻いた、自分と同年代の高校生風の
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