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少女だ。恵理は手にしていた雑誌を開いて眺めていると、その少女が空いていた隣の座席に腰を下ろした。
見ず知らずの他人と相席するのは、気持ち的に良いものではないが公共交通機関とはそういうものだ。少女はアンナチュラルな色で髪染めをしていないし、みた目もコワイ系の女でないことを思えば安心はある。同性ではあるし加齢臭を漂わせる好色そうな中年男性でないことを考えれば、それほど気にはならなかった。
横目で、その少女を見た初見の印象は、少し艶やかというのがあった。
首回りに華やでありながら控えめフリルを使い、美しいマーメイドラインのワンピース。上着にシースルーカーディガンを着ていた。
薄く透けて見えることにより、ワンピースのデザインが肩から腕にかけての肌が露出した大胆なものであることが分かる。胸から肩は、フリルをあしらった肩ひもだけで、ワンピースだけになれば、乳房の丸みが脇から見えてしまうだろう。女性特有の魅力を出す服装に、ともすれば酒とタバコに溺れた拝金主義の水商売女のようなケバイ印象を受けそうだったが、少女にそれは感じなかった。
人を拒否するような尖った感じはある。
だが、細く整った輪郭は明るく柔らかな感じがし、うっとりとした黒い瞳は澄んだ光を放つ。瞳は見る物を映し出すが、少女には見えないものを見詰めているような、考え込んで居るような孤高さに不思議な魅力を感じた。
しなやかな四肢に細い身体ではあったが、短距離走者のような力強さを感じさせた。細いながらも躍動感に溢れた筋骨は、健康的な色香と快さがあった。
少女が普段どのような服装をしているのか初対面の恵理には分からないが、普段はもっと垢抜けない服装のような気がしてならなかった。おしゃれを知らない少女が、今日という日の為に、より魅力的になろうと一生懸命、背伸びしているものを憶えた。
バスの折り戸式のドアが閉まると、恵理は雑誌を閉じて外の風景を見た。眺めていて面白い訳ではないが、本を読んでいれば車酔いをするので、単に窓の外を眺めていたにすぎない。
ふと、恵理はサイレンを遠方に聞いた。音の種類から判断すると警察車両と救急車なのが分かった。その一つが段々と大きくなる。窓の外を眺めると白と黒のツートンカラーのパトロールカーが、けたたましい音と共に赤色回転灯を光らせているのが見えた。
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