猫股

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 乗り合わせた人の中には、やじ馬根性からパトロールカーを目で追っていた。  また、ある者はスマホを取り出しニュースサイトを開いて事件事故の報道が無いか検索し始めていたが、恵理は気にしなかった。  と言うより、隣の少女が気になってしまったからだ。  なぜなら、少女が一人で笑ったから。                         ふふっ  笑うという行為に、変な印象を受けたが、恵理は思い出し笑いでもしたのだろうと思って気にしないことにした。  だが、笑いが二度。  そして、三度。  と続くと、恵理は少女の奇妙さに不安が生まれ、目を向けた。  少女は、気が抜けた表情をすると突然、頬を押さえ顔を赤らめた。その状態が続いたかと思うと、次は悪だくみでも(たくら)んだかのような気味の悪い表情で含み笑いをした。 (なに。この娘……)  恵理は、少女をさらに見た。その視線に気付いた少女と、つい目が合ってしまい恵理はヤバイと思った。 「ね。ね。あたしって、可愛い?」  偶然乗り合わせた名も知らぬ他人に唐突に訊かれ、恵理は答えられなかった。黙って座っていた時に見た時は、可愛いと言えた。合コンでもすれば、周囲の女子のレベルにもよるが、だいたいの場合、男子からは好感を得られるのは間違いない。   だが、気味の悪い含み笑いを知ってしまった時点で、少女の可愛さは減点されてしまった。状況的に可愛くないと答えると、危険な感じがしたので恵理は同意する答えをした。 「そ、そうね。か、可愛いと、思うわよ……」  恵理は、もっと自然な口調で答えるつもりだったが、初対面であるにも関わらず友人のように訊く馴れ馴れしさと、少女の気味の悪い含み笑いを見てしまったことから、たどたどしいものになっていた。常識人なら恵理の言葉が気持ちの無い、状況に流された受け答えであることが見え見えであったが、少女は違った。
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