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気がないでしょ。それでね、何していいか分からなくて言葉に詰まっていたら、『映画でも観る?』って、あの人の方から誘ってくれたの♥」
また一人で嬉しがっている少女をよそに、恵理は、
(猫まんまって何? というか、先に誘ったのは、あなたでしょ。その人、『違う』の言葉が言えなくて誘わざるをえなくなったのね……。それよりも、助けてもらったお礼がいつの間にか、この娘が喜ぶデートにすり替わっているのに気が付かないのかしら)
と思ったが、水を差すと怖いので口にはしない。
「あの人から、あたしを誘ってくれた。この機会を……。あ。今は、ちゃんすって言うのよね。この、チャンスを逃さないためにも、あたしは勉強しまくったのよ。様々な女性雑誌を買い漁って不眠不休で読みし尽くした結果、あらゆるモテ技を身につけたの。今までの非モテな、あたしとは違う。恋愛最強の女になったのよ!
まず、メイク。メイクは、基本的に色を使わずに、ノーメイクでもかわいい風のメイク。唇は、グロスでうるうるキラキラ感に、男の子はメロメロ。
次に、服。女の子の特権と言えるロマンティックなワンピース。色にもこだわって、男の子が好きなのは女の子っぽいピンク。さらに決め手は、このシースルーカーディガン。肩が大胆なワンピに上着を着るなんて、無意味にみえるかもしれないけど、それは大間違い。なにも着ていないより、着ているのに透けて見えている。そういう状況に、男の人はドキッとするのよ。
ふふん、勉強したんだから」
少女は腕組みし得意げにした。
「あ。ちなみに、頭の手ぬぐい。……じゃなかった、バンダナは、あたしの愛用品。これがないと人間になっている時に決まらないし。何より油断して頭からひょっこり耳が出たら、後は芋づる式に正体がバレ……。
いや、何でもないわ。気にしないで」
恵理は、意味の分からないことに気の抜けた返事をした。どう合わせてよいのか、分からなかったから。
少女は気まずそうに、咳払いをして勝手に続けた。
「他にも、男の子が大好きな上目づかい。手を繋ぐには、ちょっと後ろから。さりげなく彼の膝に手を触れる。目が合ったら恥ずかしそ~に目をそらす。など、全42のモテ技を覚えた、あたしは正に無敵よ!」
再び強く拳を握り締め、少女は自分自身に気合いを入れた。恵理は、うんざりし果てた顔をしていた。
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