皆鶴姫

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「高貴な方だ。助けたら、かえって後で悪いことがあっては、かなわん」 と言いあった。  そこへ村人たちの信望をあつめている仏祖のおじいさんと、おばあさんもやって来た。  おじいさんは、疲れ果てた皆鶴姫を介抱した。何日かすると、皆鶴姫は元気を取り戻し。秋がやって来る頃に皆鶴姫は義経の子を産んだ。  しかし、皆鶴姫は産後の肥立ちが悪く日毎に弱り果て、仏祖のおじいさん・おばあさんや多くの村人に見守られ静かに息を引きとった。  そこに正夢を頼った義経が現れた。義経は姫を抱きかかえると、息を引き取ったはずの姫だったが、美しく笑い返したという。  その後、姫は義経や村人の見守る中、火葬にふされた。  義経は、忘れ形見の男の子をおじいさんとおばあさんに頼み、姫の観音像を南流山に預け平泉へと向かった。何年か後、義経は姫を弔うため気仙沼にお寺を建て、一時預けていた観音像を祀り、この寺を観音寺とした。  今もこの地方に姫の生み落とした義経の子孫が長い歴史を生きつづけているかも知れません。  義経にとって皆鶴姫は何であったのか、恋われる男は、差し迫った欲求を女に感じていないため、その対処は冷酷なまでに客観的です。恋する男のために身内を裏切り、男は政治的な大義のために、女を道具として使い、その恋心を利用することを躊躇わない。  恋愛は惚れたもん負けと言いますが、それは惚れた方が好きな人の思い通りになるから。  惚れたからこその「あなたの弱み」と言っても過言ではありません。好きな人のわがままをすべて受け入れることで「私のことを好きになって」と思っています。  その為、恋人にどんなわがままなことを言われても、受け入れてしまう。  女は恋慕う男の意に添うことに、自身の大義を見出し、父を裏切る。裏切る価値のあるものを持って生まれた女であったことが、彼女を苦況に陥らせることになったのです。  ですが、皆鶴姫の死を知った時、義経は当地にかけつけ、墓をつくり自ら卒塔婆を書いて供養した。これは義経も皆鶴姫のことを本当に愛していたからこそのことでしょう。皆鶴姫を利用し、悲しいまま亡くなったという事実は変わりませんが。
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