結婚前夜

96/100
前へ
/566ページ
次へ
 黒っぽい影のようなものが写っている。  忍はそれを指差し、笑った。 「きっと、真那斗の怨霊だね」 「いや、あの……。  生きてますけど、真那斗」 「じゃ、生霊だよ。  君が結婚することになって、ようやく好きだったと気づいたんだよ。  マヌケだね」  だからさ、大丈夫、と忍はカメラの電源を切った。 「僕も真那斗もいるよ。  きっと君は結婚しても、刺激ある退屈しない人生を送れるよ」  いやあの、特に刺激はいりませんが、と思う莉王に忍は言う。 「人は波風立って初めて、ああ、自分は幸せだったんだなあって気づくものだからね」  そのとき、襖が開き、及川がケーキを持ってきた。 「おーい。  王様の友だちから届いたぞー」  長机の上、宴会料理と一緒に置かれたケーキの箱を全員で覗き込む。
/566ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2331人が本棚に入れています
本棚に追加