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7 国王陛下御乱心中
「ティアナ。君にきちんと敬意を以て、あるべき形で添い遂げたい。王位が移ったとはいっても父上の寵臣たちを蔑ろになできないが、アルマンやツェザールたちのように子供の有無は関係ないとは考えてもらえないようだった。頭が固いんだ」
「今、5時よ」
「ああ、最近は母上が君を独占するために四六時中ずっと傍に置いているからね。起き抜けにしかふたりきりで話せないんだ。起こしたかい?」
「起きてたわ」
「よかった。あれ? 早起きという意味だよね?」
「ええ」
「よかった。僕みたいに寝てなかったらどうしようかと思ったよ」
「寝てないの?」
「君が来てから興奮が冷めやらなくて」
遅れて来た春がハンスを暴走させている。
「それで、折衷案が出た。秘密結婚するんだ。君の健康に支障が出ないようであれば、家族はほしい。でも無理はしなくていい。してほしくない。君と生きていきたいんだ。世継ぎを産むという王妃ではなく、ただ僕の妻として、ずっと傍にいてほしい。運よく、つまり君が元気で幸せな日々を送っている事が前提で世継ぎも授かった場合、正式に王妃として結婚を公表するんだ。どうかな? なによりも君の意見を尊重したい」
「ハンス……」
嬉しい。
でも、私は……
「すまない。先に相談するべきだったね」
「そうじゃなくて」
私は微笑んで、ハンスの胸に手を添えた。
「離婚しないと」
「────────」
ハンスの時が止まり、
「そうだった!」
また動き出した。
「忘れていた。そうだ、君に夢中ですっかりその事を忘れていた。……そうか、だから皆、奥歯になにか詰まったような顔で曖昧な言い回しをしていたのか。君はマイヤー伯爵夫人だ!」
そんなに驚く事ではない。
「ねえ、ハンス。お互いの立場を考えたら、私は今のままで充分よ」
「そんな事は誰も望んでいない!」
よしよし。
ハンスの背中をさすってあげる。
彼は頭もいいし常に国民の安寧と繁栄を求めて政治をしているけれど、私の事となると我を失ってしまう。私が彼に火を点けてしまった事は責任を感じるし、誇らしくもあった。少し困った火ではあるけど。
なぜなら、火はしっかりと燃え広がっているから。
「愛人!? ふざけるな! 国王を誰よりも愛しているのはティアナだ!!」
執政官となったオットマーの咆え猛る声が、廊下をビリビリ震わせて轟く。
「いずれ次の国王を産むかもしれない女に専属の医者をつける事のなにが無駄遣いなのよ! 私の鬘は35年特注よ!! これの100倍は価値があるでしょうッ!?」
王母アンネリース様が亡き夫の寵臣たちに怒号をぶちまける。
「運命の恋ね! 素敵!!」
「そんなマザコン夫さっさと捨てちゃいなさいよ!!」
侍女仲間も国をあげてのメロドラマに凄く好意的。
「……」
そうなると、問題は私の夫だけだわ。
忘れているうちは幸せで、思い出すとうんざりする。まるで歯の間に挟まった草みたい。
「……」
その程度の事なのだ。
間違った相手との、結婚なんて。
「別れるわ」
私は侍女仲間の声援をうけつつ、執政官であり旧友でもあるオットマーの元へ急いだ。
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