9 私が王妃になるのなら

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9 私が王妃になるのなら

「あの子が産めないのが問題なら私がもう一花咲かせてハンスの弟を産んでやるわよ!!」  王母アンネリース様もご乱心中。  でもそんな日々も、意外なほど早く過ぎ去ってしまった。  なんと、すんなり懐妊したのだ。特別な不調も感じる事なく、大きくなるお腹を愛おしんで日々を過ごした。専属の医師も、順調だとしか言わなかった。  そして、臨月を迎え、初産で男の子を産んだ。 「はぁ……はぁ……はぁ……っ、やったわ!」 「ティアナ……!!」 「んぎゃあぁぁぁぁっ!!」  まったくの安産だった。  産後の肥立ちもよく、愛に包まれ、最高に幸せ。  姉の事を考えた。  どうして、姉には悲しい運命しか待ち受けていなかったのだろう。  唯一の救いは、天国で愛しい我が子を抱いて、共に過ごしている事だ。  年の離れた姉とは思い出も少ない。でも、もし生きていたら、年の離れた互いの子供を遊ばせたりして、和やかな午後を過ごしただろう。  そう思うと、少し泣けた。  ある日、ハンスが改まった顔で言った。 「ティアナ。結婚を公表するよ」 「公然の秘密だったけどね」  我が子を抱いて、優しいキスを受ける。  こんなに幸せな日々が待っていると、あの頃も、信じていた。 「待たせてすまない」 「もう謝らないで。私を守るためだったんだもの。ありがとう、ハンス」 「こちらこそ……ありがとう……っ」  ハンスは涙もろい。  私は自分の体調から、たぶん心配ないかもという安心感を得ていた。でも他の人たちにとっては、この出産で私が死ぬかもしれないという懸念がつきまとい、酷い緊張感と恐怖を抱えた10ヶ月だったのだ。  侍女仲間だった数人も、毎日励ましてくれたり、泣いて喜んでくれたりと、本当によくしてくれた。 「……そうだ。ティアナ、君が王妃になるにあたって、侍女をつけないといけない。母上は母上で元気にやっていくから、君が新しい宮廷を作るんだ」 「学ぶべき事は多いわ。だけど、確かに、人は必要ね」  今は我が子を抱いていられるけれど、この子にもいずれ教育が必要になる。  信頼できる仲間も。それは私にとっても同じ事。 「愛は強いわ……強い愛が家を作り、強い家が強い国を作るのね。愛こそすべて」 「そうだね」  ハンスが跪き、私の手の甲にキスをして、小さな王子の丸い額にキスをする。   「エリカがいいわ」 「え?」  ハンスが赤ちゃんに顔を並べて見あげてくる。   「だいぶ年上だし持ち場が違ったんだけど、気が合うの。強くて少し恐い時もあるけど、その分、信頼できる。教養もあって頭もいいし、姉が生きていたらあんな感じかもしれない」 「……そうか、わかった。任せてくれ」  私は愛しいハンスを見つめ、微笑んだ。 「あなたも私に任せてね。もう少ししたら、家族を増やしましょう」 「ティアナ……!!」  私を幸せにしてくれたように、私も彼を幸せにしたい。  愛を囁きあいながらキスを重ねて、穏やかな時間を守っていきたい。  この国の人すべてが、愛と幸せに包まれるように。  尊い責任を共に背負って。  生きていこう。  彼の隣で。                              (終)
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