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再会から数日が経ち高校入学式の日。 結局、同じマンションに住んでいるというのに少年と交流する機会は一切なかった。
避けているわけではないが、やはりあの日のことは気にかかるし、もしかしたら友悟の勘違いで蒼良ではなかったのかもしれない。
そのようなことを考えていたら夜更かししてしまい、入学式だというのに友悟は寝坊してしまった。
「寝坊したー!! 遅刻だ遅刻ッ!!」
ただ寝不足は昨夜だけでなく、連日続いていた。 あの時の冷たい目を思い出すだけで身体がブルりと震える。
「おはよう、友悟。 後で入学式見に行くからね」
「分かってるよ!」
急いで朝食を食べて準備する。
「そう言えば、新しく引っ越してきた人には会った?」
「!?」
それは当然少年のことを言っているのだろうと思った。 実際に会っていないため首を横に振った。
「そう。 友悟、憶えてる? 小さい頃、仲のよかった蒼良くん。 その蒼良くんが戻ってきたのよ!」
「・・・え?」
―――じゃあやっぱり、あの人は本当に蒼良だったの?
ならどうして自分をあんな風に突き放したのだろうか。 友悟には悪いことをした心当たりが全くなかった。
「蒼良くん、昔と変わらないわねぇ。 先日マンションの前で会って話をしたら、ずっとニコニコしていい子だったわ」
「え・・・。 そうなんだ」
つまりそれは性格が変わってしまったわけではなく、自分にだけ冷たい態度を取ったということだ。 だが今は入学式の遅刻が間近に迫り、悠長にしている時間はない。
「もうこんな時間! 行ってきますッ!!」
家を出ると走ってエントランスへ向かう。
―――蒼良のことも気になるけど、入学式の日は絶対に寝坊したくなかった!
―――友達を作るのが遅れる!!
入学式は重要な行事である。 この日、クラスの輪の中に入り損ねると挽回するのに非常に苦労する。 友悟は中学の時の入学式を遅刻してしまい、そのことを反省していたはずだったのだ。
高校は家から一番近い高校。 走れば15分程で着く。 幸い遅れることなく学校に辿り着き、人見知りのない友悟は早速とばかりに仲よさそうに見えたグループに話しかけた。
「おはよう! ねぇ、僕も話に入れてくれないかな?」
「おう、いいぜ。 あれ? その額の傷どうしたの?」
その問いに傷を撫でて答えた。
「これ? 小さい頃にできた傷だよ。 あまり憶えていないけど、転んで怪我をしたんじゃないかな?」
「それが今でも残っているって凄いな。 しかも傷の形がカッコ良いし!!」
「でしょ!?」
早速新しい友達ができたことが嬉しかった。 蒼良のことは残念だが、追々関係を修復すればいい。 楽しく盛り上がっていると入学式が始まる合図があった。
「出席番号順で並べって。 行こう」
「うん!」
促され廊下へ出るとある少年が目に映った。 蒼良だ。 蒼良は階段を上ろうとしていた。
―――蒼良・・・ッ!
―――同じ学校だったんだ!!
気付けば友悟は蒼良のもとへと駆けていた。
「蒼良・・・ッ! 蒼良、蒼良先輩!!」
そう呼ぶと蒼良は立ち止まった。
「あ、その・・・。 この前は馴れ馴れしくしてすみませんでした!!」
深く頭を下げる。
「それで、そのー・・・」
話が続かない。 母の話が本当なら友悟のことも憶えているはずだ。 だが冷たくされる原因が分からないため言葉に詰まってしまう。 本当は何かを話したかったのに声が出ない。
その時蒼良が階段を下りてきた。
「・・・蒼良先輩?」
見上げると蒼良は友悟の前髪をすくい上げた。 そして傷を見て優しく撫でる。
「・・・お前、昔と変わらないな」
「ッ・・・!」
「その人懐っこさも、何もかも」
そう言うと蒼良は階段を上っていった。 自分のことを憶えていると確信し安堵した。 だが同時に疑問が浮かぶ。
「傷・・・?」
友悟は傷を撫でた。 そして突然過去の記憶がフラッシュバックしたのだ。
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