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共犯者ができました!
「ででで、デートぉ!?」
俺の言葉に、わかりやすく狼狽する女騎士。
「そうだ。お前のその服装、そろそろ目に余る!」
「うっ……み、醜い身体をお見せしてしまい、申し訳ありません……」
「いや、その点に関してはむしろありがとうと言いたいが……」
ソードがこの世界に来てからこっち、俺たちは買い物に出かけたりはしていない。
それはひとえに、彼女がこの世界の知識を最低限得てからでなければ外へ連れ出すことはできないという事情によるものだった。
自然、彼女が普段着として身につけるものはもともと家にあったものになり、つまり彼女は今、俺の服を着ているのだ。
すらっと引き締まった身体に俺の服はいささか大きく、油断するとあんなところやこんなところが見えたら見えなかったりしそうになる。
気構えとしては彼女の保護者的な立ち位置であろうと思っているものの、俺とて健全なオトコノコ。正直、そろそろまずい。主に俺の理性が。
未だに電化製品のことを魔法具だと勘違いしている程度にはこの世界のことを理解してはいないが、少なくとも最低限守らなければならないルールは知識として叩き込んだはずだ。
であれば。そろそろ、外へと連れ出す頃合いだろう。
そして。彼女を外への世界へと連れ出すのには、もう一つ理由がある。
「デートというのはその、二人きりででしょうか?」
何故か少し顔を赤らめつつ訊ねる女騎士に、俺は「いいや」と告げる。
「今回は俺ともう一人、女の同行者を付ける予定だ」
……。
しばし謎の沈黙を挟んだのち、女騎士は「はあ」と一つため息をついて。
「同行者ですか。それはまた唐突ですが、なぜか伺っても?」
「ん、まあ、なんだ、そろそろ俺の知識だけではその……」
言いよどむ俺と、「——?」小首を傾げる女騎士。
俺は自分の頬が熱くなっていくのを感じながら誤摩化すように言う。
「——ともあれ! お前には、同性の理解者が必要だ」
***
その夜。
俺は、普段はほとんど使わないラインで、最近IDを知ったある人物に初めて連絡を送っていた。
◇◇◇
〈江口〉
こんばんわ。江口です。
—3分後—
〈あえか〉
わ。いきなりでびっくりしましたよ。こんばんわ。
せっかく手に書いてまで教えたのに、ちょっと遅くないですか〜?
(涙を流す侍のスタンプ)
〈江口〉
いや、用事もないのに送っても迷惑かなあと……。
〈あえか〉
えと……それはあの流れで教えた時点で察して欲しいんですが……
まあ、いいです。
(ジト目の侍のスタンプ)
つまり、何か用事があるってことでいいですか?
〈江口〉
折り入って。
明日、バイトの後、駅前のマックに来てもらっていいですか。
(土下座する侍のスタンプ)
〈あえか〉
ラインじゃダメなんです?
あと、前にも言いましたけど、ため口でいいですよ?
〈江口〉
そっか。じゃあ、お言葉に甘えて……。
物書きにあるまじきことではあるけど、文章じゃうまく伝えられるか分からないし、それに……
いろいろと、覚悟が必要だから。
—5分後—
〈あえか〉
はあい、わかりました〜。では、おやすみなさい。
◇◇◇
宇奈月はベッドの上でそうやりとりを締めくくって、しばしほうけて——
「〜〜〜〜っ!」と枕に顔を埋める。
(い、いきなりすぎでしょう——!?)
——覚悟って、そういうことだよね!?
そして、がばっと上体を反らせてすっかり赤くなった顔を上げ、
「な、なに着ていこう」
誰にきかせるでも無く、そう呟くのだった。
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