ドラゴンの描写が甘いです!

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「——さい——きなさい! ……起きてください!」  綺麗なソプラノで目が覚める。一度大きく伸びをして、起き抜けで霞む目をこすり世界の輪郭を獲得する。すると眼前には、薄暗い部屋の中俺の顔を覗き込むようにする少女の御尊顔があった。  意志の強そうな大きな目。すっと通った鼻梁。小ぶりな唇。大部分が背中に流された濃紺色の長髪が一房だけ顔の横から垂れていて、少女はそれを耳にかけながら言った。 「朝の祈りの時間ですよ」  なんとも艶かしいその仕草に一瞬見惚れ、何度きいても現実感の無いその言葉に、どこか俺の知らないところに来てしまったのではという錯覚に陥る。が、ここは紛れも無い、東京都東久留米(ひがしくるめ)市にある俺の家だ。と、天井に貼ってあるポスターをみて確信する。  彼女がこの部屋に住み着いてから、もう一週間だ。それからというもの、俺は毎朝こうして、朝の六時ぴったりに起され続けている。 「あ、あの、いつも思うんだけどさ。それ、俺もやる必要ある?」  そういう俺を、彼女は心外そうに見返す。 「当然です! 我々は日々、女神アリューレ様によって守護され生かされているのですよ? それは世界を(こと)にする今でも変わらない事実であり、〈大魔術師〉たる御身にとっても同じこと。それに対し祈りを通じて感謝を伝えることのどこに疑念の余地がありますか」  憤慨した様子の彼女に、俺は「は、はあ……すみません……」と気圧されつつ、不承不承ベッドから降りる。そんな俺の様子を見て「まったく……」と彼女は部屋の真ん中に膝を折って座り、「さあ、導師(せんせい)も」と自らに(なら)うよう促してくる。  そして俺が隣に同じように座ったのをみて満足そうに、彼女は祈り始める。 「この異世界に召喚された身である私たちにも、どうか光のご加護を——」  俺たちの眼前。  壁一面に描かれた〈魔方陣(・・・)〉に向かって。
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