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「ごちそうさまでした」
「おそまつさまでした、シエロ導師」
テーブルを挟んで彼女はそう微笑んで、食器類を持って片付けに入る。
……もちろん俺は魔法使いでもなければ魔術師でも呪術師でもない。ましてや大魔導士など、おこがましいにも程がある。地球生まれ地球育ち。なんなら日本から出たことすら無い。俺はただの、絶賛人生路頭に迷い中の売れないファンタジーライトノベル作家だ。……いや、商業的な活動の途絶えた今は、作家を名乗っていいのかすらももうわからないんだけど。
だが彼女は、なんやかんやあって俺のことを大魔導士だと思っている。今だって、
「やはりこの、ボタンを押すだけで火の出る魔道具はいつみても素晴らしい……食材を保管するのに使うこの冷気を放つ箱もそうです……」
と溜め息を漏らし、
「そしてその全てが魔力の流れを一切感じさせないというのがすごい……やはり導師は天才です」
こんな風に。エプロン装備でてきぱきと朝食の後片付けをしつつ、文明の利器たちを俺が手ずからつくりあげた魔道具だと思って感嘆している。
「私のかつて所属していた騎士団の詰め所にこれらがあれば、わざわざ魔法使いを常駐させておく必要もなかったというのに……」
そう過去に想いを馳せる彼女を見て、俺は自分の頬を冷や汗が流れ落ちるのを感じながら、
(まあこうなってるのも、結局は全部俺のせいなんだよな……)
と独りごちる。なぜなら——
「さて、では、今日もはじめましょうか。
導師の書く、ファンタジー小説の監修を!」
俺、〈シエロ〉こと江口耕介は、彼女、〈女騎士〉ソード・スラッシュ・マスターソンを、適当に描いた魔方陣で現代日本に偶然召喚してしまった。
そして俺は、そんな異世界事情に明るい彼女を——
「まず、このドラゴンの描写ですが……ドラゴンはもっと、えっちな目をしています」
「どういうこと!? ……じゃなくて、そうだっけ!?」
自らのファンタジー小説の監修のために、利用している。
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