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ええっと、顔ですね!
そもそもなぜ俺は適当ながらも魔方陣を描き、彼女を召喚するに至ったのか。
まずは、そこから語らなければならないだろう。
遡ること一週間。
週五で入っている書店でのバイトをなんのイレギュラーもなく恙無く終えたあたりから、思えばその日はなんだかおかしかった。
夕間暮れ。アルバイト先である駅前の書店・〈黒部書店〉を出ると、先ほどまで同じ空間で働いていたバイト仲間である宇奈月あえかが、店の前に停めてある自らの自転車を目の前にしてあたふたしていた。途中から見なかったから今日はとっくにあがっていると思っていたのだが、どうやら違ったらしい。
いつもならまず自分から他人に話しかけるようなことはしないのだけれど、その日は、どうしてか彼女に声をかけた。
「お疲れ様です。宇奈月さんも今あがりですか」
「あっ、江口さんだあ。って、仕事以外で江口さんから話しかけてくれるなんて、実は初めてじゃないですか!?」
彼女は俺を見るや、「わ〜!」っと手を合わせて破顔した。
「そんなこと……いや、あるかもですね、すみません」
とうなじに手をやる俺に、「ですよ〜」とぽわぽわ笑う宇奈月女史。
宇奈月あえか。
都内のお嬢様大学に通う一年生で、ダークブラウンの肩程までのセミロングを後ろ手にリボン付きの瀟洒なバンダナで纏めているのがトレードマーク。ザ・大和撫子という感じの柔和な顔立ちで、そして……胸が大きい。……いやまあ、それはいい。
「それで、何か困ってるんじゃないですか?」
「そうでした! わたし、自転車の鍵をなくしちゃったみたいで……」
「あー」
なるほど、それで。
「無くした場所に心当たりとかあります?」
「いえ……あ、もしかしたら……」
「あるんですね?」
「たぶん……?」
いつもなら絶対に、こんなことは言わなかっただろう。だが何故だかこの日は、なんとなくそのまま彼女を放って帰ることが出来なかった。
「場所、教えて下さい。俺も、探すの手伝いますよ」
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