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鍵を返しにいく途中。俺は書庫で拾ったあの無題の本を持ったままなのに気付いて、再度閉架書庫にきていた。そして、その本を書棚に戻そうとした所で、書棚には本がすでにきっちりと詰められていて、とても入れられる隙間など無いことに気付いた。
(あの娘、もの凄く真面目で、几帳面だよなあ……)
普段の仕事ぶりからも、それが窺えた。だからこそ、俺をある一つのことに思い至らせる。
(そういえばあの娘、俺の二作目には全く触れなかったな……)
几帳面で真面目な彼女なら、あの流れで二作目についても何らかの感想を述べても不思議ではなかったのではないか。むしろ二作目こそ、直ぐに打ち切りになった分、仮にポジティブな感想を持っていたとしたら、そのことを伝えて来るのではないか。つまり、彼女にとっても二作目は、俺に感想を伝えるに値しない——いや、伝えることが憚られるものだったということなのではないか。
と、そこまで考えて、俺はため息をつく。
(自分の作品への肯定的反応を勝手に期待して、そうならなかったからって勝手に落胆するなんて、控えめに言って最低だ——)
自分への軽蔑。と同時に、沸々と心が煮え滾るのを感じる。
そうだ。いつまでもこのままじゃだめだ。
俺は次こそ——
(決めた。俺は絶対に、あの娘にもう一度面白いって言わせられるような作品を書く。次こそは。どんな手を使ってでも——!)
そう心に誓った俺は、天高く拳を突き上げた。
するとその勢いで、先ほど拾って脇に抱えていた本が滑り落ちてしまう。
「おっとと」
慌てて拾おうとすると、風で本のページがぱらぱらと捲られ、中身が俺の目に飛び込んできた。
そういえば何が書いてあるのだろう——と意識を向けると。
その本には、幾何学的な模様や図が、何種類も、ひたすらに、何ページにもわたって書き連ねられていた。
(なんだ、これ——? これはまるで——)
そう、それらはまるで——
「魔法、陣……?」
ファンタジーで言うところの、〈魔方陣〉だった。
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