龍待つ海

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 この娘と出会った地。あの地で木の精としての役目を果たす。わしに与えられたのはその一つだけ。  大人しく木々を見守り、木々が苦しんでいる時は代わりとなって声をあげる。  それが木の精たるわしの役目。一つの地に留まり、木々たちを見守る。動き回ることができるキジムナーとは相反する妖怪(マジムン)。 「何がただの木の精よ。あんたは越来城(ごえくグスク)一帯の木々を見守ってたんでしょそれって結構な範囲だと思うんだけど」 「あぁ、それだそれ。ごえくだったな。人間が付けた名前は覚えにくくて嫌になる」  わしが名前を聞いてすっきりしてると、そんなことより話戻すよ!? と娘は大声で抗議してくる。 「いい? この国が異国に支配されようとしてるの。国の象徴たる王を勝手に異国に連れ出した。今この国には王が不在。そんなことありえない。今までだったら許されないことなの。清との関係だってあるのに、大和……薩摩の連中はふざけてる。これからのこの国がどうなるか」 「娘ならば喜ぶはずでは?」 「……大昔のこと引っ張り出さないで」 「おや? それほど大昔の話ではないとわしは記憶しているが? 娘がこの国に残した強い未練。それを忘れたわけではないだろう」 「師匠にとっては大昔じゃないかもだけど! 百年以上昔のことは大昔なの!」  この娘は以前の王とやらの娘。  王が死んだ後は散々な目にあい、新しい王族たちから利用され尽くした後に捨てられた。  王の娘ならば王族たちは血の繋がったものではないのか? と聞いたところ血は繋がっていないと言う。細かく聞かされたが覚えていない。眠かったことだけははっきりと覚えてる。 「こんな国、滅んでしまえ。人魚(ザン)になったばかりの時はよく言っていただろう」 「そりゃね。あんな扱いされたら呪いたくもなるし国の破滅をこの目で見たいって思うでしょ。師匠だって私と同じ境遇だったらそう思うはず」 「あいにく、わしはただの木の精。人間の考えることなど理解しようとも、したいとも思えんのよ」
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