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木の精たるわしを見つけた霊力の強い娘。
人に見つかったことも、話しかけられたこともなかったわしは酷く慌てたのを覚えてる。
『あなたはだぁれ? 私は真乙、越来のお城にいつからいるの?』
真乙と名乗った娘は可愛らしい笑顔を私に向けた。
二人の兄と弟と妹が一人づつ。それから母親の違う兄妹たちもたくさんいると言っていた。
『みんなと遊ぶのも楽しいんだけどね、私はこのお城から出てみたいの』
娘はわしに外の話を聞かせろとせがんできた。わしはここら一帯の木々を見守る役目を持ち、キジムナーのように動き回る妖怪ではない。
娘に何度説明しても、外の話を聞かせろの一点張り。困り果てたわしはキジムナーや霊たちから聞いた話を話した。
わしが不確かな記憶を探りながら話しているのに、娘は楽しそうにきらきらとした目でわしの話に食いついていた。
そんな話を聞いて何が楽しいのか、今となってもよくわからない。
木の精であるわしはともかく、この娘は人間。足とやらがついているのだから、行きたいと思った場所にどこへでも思うがままに行けばいい。
『私、このお城から出ることになったの』
人の成長は目まぐるしく感じるほど早い。
ほんの少し前まで童だった娘は大きくなった。
『父上様がこの国の王になることになったの。私も父上様たちと一緒に首里のお城に行くことが決まった』
良かったではないか。娘にそう声をかけると、いつもの可愛らしい笑顔ではなく寂しそうな顔をしていた。
『このお城から出られるのは嬉しいの。嬉しいはずなのに……生まれ育ったこの越来のお城を離れるのは寂しいし、師匠と離れるのはもっと寂しい。それに、首里のお城に行ったらきっと私はすぐに……』
娘は言葉を続けることはなかった。
そして、わしに別れを告げることもなく城を後にした。
もう会うことはないだろう。もうわしが人間と関わることも、言葉を交わすこともないだろう。
少し寂しく思いながら、木の精としての生活に戻ったはずだった。木の精としての役目を果たすために存在するわしに戻ろうとしていた。
それなのに、不思議なことにわしはその役目を放棄してこの娘の元に来てしまった。
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