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「今の王はね、私のせいで死んだ尚宣威王の……空添の子孫なんだって」
この国の王たちはややこしい。
血が繋がってないだの、殺しあっただの、呪いあっただの。もっとわかりやすくなればいいものを、どんどんややこしくなるばかり。
初めの頃はわしも理解できていたが、今の王たちのことは一切知らん。理解できないほど、ややこしいことになっている。
「娘がまぐわったとか言うやつの子孫だと言うことか」
「ちょ、それを本人に言うな! 後悔してるんだから。それに恥ずかしい」
「娘にもそんな感情があったとは」
「人魚になってからはこんなんだけど、人間だった頃は大人しかったでしょ!? 師匠も知ってるはず!」
娘の人間としての生はキジムナーたち他の妖怪や霊たちに聞いた。
親や夫、そして仇たちに利用されるだけの生だったと言う。城で宝のように大事にされて育った娘が、そのような生の果てに死ぬとは思っていなかった。
「……せっかく王になれたのに、こんなのって酷すぎる」
娘は大声で怒鳴っていたかと思えば、つぶやくように言葉を漏らしだらりと下を向いて動かなくなる。
最近はこんな調子のまま。感情の起伏が激しい。
まるで、娘が死んだと知ったばかりのわしのようだ。あの男に怒鳴り散らした過去のわしそっくりで、思わず目を背けたくなってしまう。
「娘は今の王に何を望んでいた?」
わしの問に娘は目を伏す。尾びれを動かしてぴちゃぴちゃと水を揺らす。
海に沈みかけている太陽の光が水面に反射して、わしと娘を照らす。
木々の中で暮らしていたわしが、砂浜や広い海。そして人の営みをこの目で見れるとは思っていなかった。
キジムナーたち妖怪に羨ましい、そんな感情を抱くだけで終わるはずだったただの木の精。そんなわしをここまで連れ出した。こんなところに来るほどの感情を植え付けたのは、幼き頃の娘。
そして、離れたくないと思わせているのは人間としての短き生を手放し、人魚として国を見守る今の娘。
「私のせいで死んだ……私のせいで追いやられた……空添の名誉を……」
人魚となった娘と再び会った時、城にいた時の面影はなかった。
凛と咲き誇る美しい花のように、静かに微笑み誰にでも優しく、わし以外には一歩引いた目線と態度で接する。
美しく大人しく、そして少し冷めた娘。
わしは娘のことをそんな風に思っていたが、人魚となった娘は口を大きく開けて笑い、思ったことをすぐに口に出し、ころころと表情を変えていた。
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