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「私は宇喜也嘉に言われるがまま……空添を陥れた。私が空添に近づかなければ、王になるべきはあの人だったの。それなのに……自ら王の座を手放さざるを得なかった。私が生まれ育った越来城で惨めに死んだ。そんな……そんな空添の子孫が王になったんだから……頑張って、ほしかった」
娘が城を離れた後、どんな目にあったかは知ってる。知ってはいるが、本人から聞いたのではない。娘を見ていた他の者たちから聞いた話。
ただ娘を見ただけの他人と、それを実際に歩んだ娘では全く違う言葉を使うだろう。
「娘はこの国の破滅を望んでいるのでは?」
手のかかる娘だ。わしが促さねばならないとは。
娘よ、もう素直になっても良いのではないか?
「そうなの……私は家族を惨めな死に追いやった王たちが……私を利用した宇喜也嘉の子孫たちが恨めしかったはずなの」
あともう一息、というところだが……時間切れになってしまう。
言葉に出させれば娘は素直になるだろうに、これはわしが手助けなどせずに、娘本人に自覚させろということかもしれんな。
「日が暮れる。わしは一度戻るぞ」
「……なによ、私の話最後まで聞かない気?」
「聞くつもりだったが、わしが木々から離れてから少し時間が経ちすぎている。木の精としての役目から逃れられないのは娘もわかっているだろう」
木の精は動かずに木々を見守る。動かず、ということに関しては破ったが、役目からは逃れられない。
娘が人魚として海から逃れられないのと同様、わしも木の精としてあの地の木々から逃れられない。
「……私、この港にいるから。尚寧王が帰ってくるのをこの目で見るまではここにいる。絶対離れてなんかやるもんか」
娘はわしに何も言わずに、ちゃぽんと海の中に消えていく。
「……別れを告げないのは相変わらずのようだ」
人間を捨て、名前を捨て、娘は人魚と相成った。
娘自身の目で国の行く末を見守る。それが娘にとって幸か不幸か、それは娘自身もわかっていないことだろう。
だが……そうだな。幼き頃から娘を見てきたわしとしては、人魚となったこと、わしと再び会ったこと、この国の行く末を見守ること。それを少しでも幸せだと思ってくれれば、それはそれは嬉しく思う。
人間としての娘は確かに不幸だった。でも、それを懐かしいと懐古できるぐらい、人魚として幸せになってくれ。
「道楽でも災難でもない。そんなもので終わってくれるな。お前はそんな存在で終わる者ではないはずだろう。真乙……いや、百度踏揚よ」
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