青春の鼓動 ~僕たちの昭和~  第一巻

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第四話  フラフープ もう一つ、三年生の頃の思い出としては〝フラフープ〟がある。 当時このフラフープは大流行で、やり過ぎて腸捻転になる人が続出し、たびたび新聞の社会面を賑わせていた。 実はこのフラフープ、この一年前の昭和33年の大流行で、我が家でも欲しくて欲しくて仕方なかったのだが、何せ貧乏でそんなものを買う余裕は無く、圭司・龍男兄弟はいつも友達の物を借りて、肩身の狭い思いをしながら楽しんでいたのだ。ところがブームが去るのは早いもので、前述の腸捻転騒ぎもあり、その一年後には誰も見向きもしなくなっていた。 清八父ちゃんが、お勤め帰りに通り掛る、町役場前にある木村スポーツ店では、在庫処分のバーゲンセール真っ最中で、半額以下或いはもっと安値での購入も可能になっていた。 そこで清八父ちゃん、圭司・龍也の兄弟を呼んで大張り切り。 「フラフープ、買ったるぞ。」と言ってきた。 夏休み真っ只中、ちょっと蒸し暑い夜の夕食後に、夕涼みをしていた時のことである。 兄弟二人は、友達から借りてやっていたし、もう流行ってもいないので、『どっちでもええがや。』とは思っていたのだが・・・。 一年越しの夢をかなえてやろうと言う父ちゃんの気持ちを察して、付き合うことにした。 いつの世も、子供の流行り廃りに、大人は疎いものである。 そして清八父ちゃん、二人を連れ出し夜の町へ。15分程の、男三人の道行きである。 久し振り?と言うより、恐らく初めての男三人での〝お出掛け〟だったであろう。 狭い家での大家族暮らし、子供ながら〝男同士の話〟が出来て、圭司は嬉しかった。 程なく、木村スポーツ店に到着。 バーゲンセールのフラフープ、一年越しで待望の〝ゲット〟だ。 その帰り道、自宅近くの路地裏には入って、得意げにフラフープを手にした清八父ちゃん。 「どうだ、やってみろ!」 二人はもう何回もやっているので慣れたもの、上手にフラフープを操って見せた。 それを嬉しそうに見ていた清八 「ちょっと、やらしてみ。」と、フラフープを手に取った。 そして二人の真似をして、回そうとするのだが、全然上手く回せない。 何度も何度も挑戦する、その腰つきが滑稽で、二人は転げまわるほどの大笑いだ。 一年遅れのプレゼントだったが、父の一生懸命な姿と可笑しさが、忘れられない夜になった。
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