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第三話 相撲大会
昭和33年、二年生も担任は早川先生。
組替えもなく、クラスメイトもそのままだ。
或る日の体育の授業、先生の発案で相撲大会が行われることになった。
場所は、校庭の砂場。
男子も女子も混合での大会で、その年齢では女の子の方が強いのはよくあること。
と言うより、普通のことであった。
トーナメントで勝ち上がったベスト4は、渡辺早苗ちゃんと渡辺静江ちゃんの女子2名と、大橋育夫くんと松山圭司の男子2名で、これ、偶然男子・女子それぞれの背の高い順。
こうなると男子対女子の紅白対抗の図式となり、大会そして授業は俄然盛り上がっていく。
「さなちゃん、しーちゃん絶対勝ってよ‼図体デカいけど、二人とも大したことないよ。」
女子応援団の大声援である。
「うん、頑張るよ!」
二人とも顔を紅潮させて応える。
対する男子軍
「女になんか負けたら承知せんぞ!絶対勝てよ。」
自分たちが負けたのも忘れて、これまた大声を張り上げている。
「おう、まかせとけ‼」
男子代表の二人も、自信満々で応えていた。
先ず、早苗ちゃん対育夫。
「見合って、見合って!」
先生の掛け声で立ち上がり、土俵中央で組み合う二人。
早苗ちゃんが負けそうになる度に「キャー!」と女子応援団の悲鳴が上がる。
それに驚いて育夫が力を抜いたりして、中々決め手がなく、一進一退を繰り返していた。
育夫くん、優しい子で女子を投げ飛ばすなんてとてもできなくて、何とか〝押し出し〟或いは〝つり出し〟で決めたかったみたいで、グズグズした展開になっていた。
早苗ちゃんもよく頑張ったが、最後は育夫に押し切られて土俵を割ってしまう。
「ああああー。」女子のため息。
「よっしゃー!」男子の歓声である。
次は、静江ちゃん対圭司。
女子最後の砦、静江ちゃんに対する声援は凄まじく、
圭司にも、少なからずプレッシャーとなって押し寄せて来た。
「ハッケヨーイ、ノコッタ!」
早川先生の掛け声と共に二人は立ち上がる。
両手を組み合った所謂〝手四っつ〟の格好で、暫く押し合っていた。
そうこうしている内に、疲れの見えて来た静江ちゃんの様子を圭司は見逃さなかった。
「エイ!」と両手を手前に引き下げると、あっけなく前のめりに倒れた静江ちゃん。
「ああー!」再び会場は女子のため息に包まれた。
そしていよいよ決勝戦、圭司・育夫二人とも勇んで土俵に上がった。
観客の応援は圧倒的に大橋育夫君。男女ともに、である。
実はこの勝負、普段の遊びの中では圭司が圧倒的優勢で、誰もが彼の優勝を疑わなかった。
この声援、所謂〝判官贔屓〟ってやつである。
育夫も、声援に応えて『今度こそ‼』とリベンジに燃えていた。
圭司は圭司で、勝つのは当たり前の感覚で、
『ここはひとつ、栃錦張りの土俵際逆転の〝うっちゃり〟で格好好く勝とう。』
などと、慢心で天狗の鼻を目一杯高くしての立ち合いである。
その頃松山家にはテレビは無かったが、近所のお金持ち加藤さんの家で相撲中継のテレビを毎日見せて貰っていたので、そういう技はよく知っていた。
その頃はそういった近所付き合いが当たり前で、街頭テレビではないが近隣住人がテレビに有る家に集まって、よく一緒に見ていたものだった。
そして始まった大一番。
思惑通り育夫くんはグイグイ押してきた。
彼は彼で必死である。
『よし、よし。』思い通りの展開に、ほくそ笑む圭司。
頃合いを見計らって、「エイ!」と気合を入れてうっちゃろうとした瞬間、
先生の声が、かかった。
「勝負あった!育夫の勝ち。」
圭司の足が、土俵を表す線からはみ出していたのだ。
「ええええー何で?何で?」訳も解らず、戸惑う圭司。
「ヤッター‼」大喜びの育夫。
〝勇み足〟で圭司の負け。
「くっそー‼」土俵の砂場を叩いて悔しがる圭司。
「ワー!ワー!」座布団こそ飛ばなかったけど、番狂わせに大騒ぎのクラスメイト。
こうして、2年7組〝大相撲砂場場所〟は幕を閉じた。
松山圭司くん、この頃から肝心なところで最後の詰めが甘かったのだ。
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