青春の鼓動 ~僕たちの昭和~  第一巻

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第六話  学級会 昭和35年、四年生のクラス替えで4年2組。担任は田中満子(みつこ)先生になった。 但し一学期が終わると産休に入り、二学期からは大橋聖子(せいこ)先生に代わる。 クラス替えから数日後に、身体測定があった。 圭司の身長は142㎝。当時の四年生としては大きい方で、 田中先生から「あら、松山君もうすぐ先生追い越しちゃうね!」と言われた。 一学期が終わって産休に入った田中先生は小柄で、恐らく150㎝足らず。産休明けには他校に転籍されたので、残念ながら圭司が先生を追い越す場面は確認できなかった。 二学期に入り、担任が大橋聖子先生に代わってから一ヵ月程経った、学級会での出来事。 この学級会と言うのは、毎日帰りの時間に行われる、その日の反省会のことである。 学級委員と呼ばれる男女各一名の優等生が議長を務め、誰それがどの子に意地悪したとか、何々君が掃除をさぼってばかりだとか、ほぼ九割方、女子が男子を吊し上げる会と思って間違いない会合である。 いつもやり玉にあがるのは、所謂ヤンチャ坊主で、その連中は何を言われても慣れたものだ。ところが今回は、その対象が学級委員の西浦功(いさお)君だから驚きだ。 一言付け加えると、その日は学級対抗のドッジボール大会があり、惜しくも準優勝であった。 発言者は幸村恵子(こうむらけいこ)ちゃん。 「西浦君が人を差別するのはいけないと思います。」 「え、えっ? おれ⁈」それには、まず、やり玉に挙がった西浦君がビックリ。 続けて恵子ちゃん、「今日のドッジボールの試合で、私とか、そんなに上手くない人が失敗すると滅茶苦茶怒られるけど、上手な人が失敗すると『ドンマイ、次頑張ろう!』って言う。これって何ですか?自分は勉強も運動も出来るかも知れないけど、それが出来ない人もいます。どう思いますか?」ここまで一気にまくしたてた。 「そうだそうだ、そうだがや!」 もて男・西浦に対して、面白半分・やっかみ半分の男子の声。 「そんなことないわよ。チームが勝つ為に一生懸命なだけよ。」西浦ファンの女子の声。 喧々囂々、あちこちから声が飛んで大騒ぎ。それだけ皆の関心が高い議題だったのだろう。 西浦君、思ってもいなかった展開に動揺は隠せず、ドギマギしながらこう言った。 「俺、そんなつもりはなかったで。キャプテンだし何とか勝ちたかっただけだがや。」 恵子ちゃん「私だって勝ちたかったよ。だけど、あんな風に言われたら悲しなっちゃう。」 こういう時、必ずその内容に付いて茶化したり冷やかしたりする輩が登場するものだ。 クラスのひょうきん者でお調子者の、太田秀夫君がすかさず茶々を入れる。 「恵子、お前、西浦が好きだから、そんな風に言われてショックだったんだないの?」 それに怒った恵子ちゃん、「太田君は関係ないでしょ‼。部外者は黙ってて。」 太田君も反論「俺だって、チームの一員だぞ‼。意見ぐらい言ってもええだろ。」 議長の女子学級委員・児玉むつみちゃん登場して、ピシャリと一言。 「太田君の言ったことは、この議題とは関係ありません。余計な事は言わないで‼。」 「むっちゃん、ありがとう‼。」 親友児玉さんの言葉が嬉しくて、恵子ちゃん泣き出してしまった。 その後も学級会は紛糾して、男子は、ほぼ西浦擁護、女子は全員恵子ちゃん支援という形勢で、結論に至らないまま時間が過ぎようとしていた。 そろそろ授業時間が終ろうとした頃合いを見計らって、最後に大橋先生。 「みんなの色んな意見が聞けて嬉しかった。」 「大会では皆、勝つ為に一生懸命だったことは確認できたでしょ?」 「一つの目的の為に、皆が力を合わせることが大事。」 「その為にどうしたら良いか?気持ちを一つにするって何か?」 「西浦君の発言は、決して人の好き嫌いでのことではないと解ってあげてね。」 「西浦君も相手の身になって話すこと。」 「こう言うことは、これからもよくあるからね。忘れないようにしましょうね‼」 これ、永遠の課題。大人になった今以て、圭司はその正解を知らない。
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