【7】怪物と沈黙

15/15
前へ
/125ページ
次へ
 そして夜が来た。  仮初ではない本物の月が街を照らし、静かな世界を作り上げる。    ある場所では二人の怪物が眠っていた。  一人は黒く美しい長髪を床に垂らし、小さく丸まるように。もう一人は無機質な台の上で、仰向けになって死んだかのように。    ある場所では虹色の獣が人間を探していた。  鼻をふんふんと鳴らし、空気の中から目当ての匂いを探そうとしている。  やがて一方向に首を向けると、満足したかのように舌なめずりした。  ある場所では四足の獣が目を光らせていた。  虹色の獣が駆け出したのを見ると、それは静かに後を追い始めた。  人々の足の間を擦り抜けながら、着実に距離を詰める獣。  しかし「それ」の存在に怯える人間は、誰一人としていなかった。  月は静かに街を見下ろしている。  怪物達は穏やかにそれぞれの夜を過ごしていた。  その安寧が、近いうちに崩れ去ることを心の中で察しながら。 ーー続くーー
/125ページ

最初のコメントを投稿しよう!

15人が本棚に入れています
本棚に追加