【1】虹色と結晶

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【1】虹色と結晶

 目の前に広がるのは惨状だった。  周囲には腐臭を放つ肉片が飛び散り、赤や透明な液体がこれでもかと飛散している。辺りには僕以外の人間は見当たらず、立ち並ぶ建物は無惨にも崩れ落ち、ただの瓦礫と化している。人間の生活できる環境はそこには無かった。 「あぁ楽しい楽しい楽しい‼︎  頭千切っても首切り裂いても、足をバラバラにしても動けるなんて‼︎  これじゃあペタルデスが先に力尽きるかも⁉︎ そうかも⁉︎ 」  甲高い声を挙げながら、虹色が瓦礫の山から飛び出してきた。 「群れ」の一員、ペタルデス。一つの体に三つの意思をもつ彼女は、目の前で暴れる敵に向かって笑いながら襲いかかった。無論そのような突撃は敢えなく避けられ、ペタルデスの華奢な体は容赦無く組み伏せられる。 「捕まった‼︎ 捕まった‼︎  どこ噛まれる⁉︎ 頭からがぶり⁉︎  全身ぐっちゃぐちゃにされるかも⁉︎ 」  敵がペタルデスの体を噛み砕こうとする。  しかしその巨体は、横から飛んできた黒い影に突き飛ばされた。 「全く。君に加勢したくないのに……」 「ラピス来た‼︎  捕まえる⁉︎ 切り刻む⁉︎  駄目駄目‼︎ 今はそれしちゃ駄目だよ‼︎ 」  ペタルデスはひょいと飛び起きると、再び敵に向かって身構えた。  それを横目で眺めながら、先生は僕の方をちらと見る。 「悪いがライカ君。この状況は君が原因と言わざるを得ない……その責任をとって、奴は君の手でも倒して貰うよ」 「……分かっています」  立ち塞がるは肉塊の狼人間(ルー・ガルー)。  既に顔には深い切り傷、腕の一本は千切れ、体の各所から骨が飛び出ている。先程以上に弱った様子は見えない。むしろ体が傷付けば傷つくほど、肉塊の勢いは増している。多少でもこちらの攻撃が効いているのか、はたまた全く効いていないのか……後者だった場合、僕が最後の手段を使うしかない。  どうしてこうなってしまったのだろう。  ……いや、理由は分かっている。先生が言うように、全ての原因は僕だ。  僕が殺していれば。間違った判断をしなければ……  後悔しても仕方がない。  今の僕に出来るのは、目の前の敵を倒すこと。  そして自分がしてしまったことを振り返り、犯した罪を償うことだ。
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