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「……」
ラピスの前には横たわる人間がいた。
白い台の上に寝かせられた「それ」は、何も言わずにただ倒れている。
その顔は死んでいるかのように安らかであり、息すらも止まっていた。
「……許してくれよ」
周囲には誰もいなかった。
気を利かせた編集長が、他の人間を外に出したのだった。
「なにせ私一人じゃ、奴らと対等に渡り合えないからね……」
ラピスはゆっくりと口を開けた。
そして横たわる「それ」に向かって顔を近づけ、首元に歯を当てた。
「んっ……」
彼女の歯が肉に刺さり、つうと血が滴り落ちる。
「……やっぱり慣れないや」
顔を離したラピスの口からは、微かに血が滴っていた。
横たわる体はまだ動きそうにない。それでもラピスは息を吐くと、体をグッと伸ばして床に座り込んだ。
「さて、後は様子見だ……君達は、いや『君』はどうなるのかな? 」
彼女が見つめる「それ」は、一つの人間だった。
身体中に縫い後の残るつぎはぎだらけの体。足りない部分を補い合ったそれは、狼人間と同等の「怪物」とも言える姿だった。
「……っと、早速か。随分とせっかちだなぁ」
「それ」の指が微かに動いた。
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