― 最終章 ― 

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― 最終章 ― 

― 五年後 二千二十七年八月 東京 ―  ギラギラと眩しい太陽が照り付けるアスファルト、交通量の多い駅前通りには渋滞の車列が連なりクラクションが鳴り響く。  都会の雑音が行き交う中、新築間もない自社ビルオフィスへと続く歩道を、ITエンジニアセンターで四ヶ月の研修を終えたリクルートスーツ姿の新入社員十名が人事担当者と共に歩む。 「はい、こちらが我社の本社新社屋となります。ここからは、事前にお渡しした各赴任先フロアへ各自向かって頂き、フロア担当者の指示に従ってください。総務部と経理部の三名は、私の後に――」 「はい。ありがとうございました」  声を揃え引率した人事担当者へと礼を述べる。社会人としての厳しいマナーも受けているのか、無駄口を叩く事無く各々自らの配属先へと向かった。 「プルルルルル――」 「はいっ。エンジニアプログラムフロア主任の森です。新入社員? あぁ、ウチは二名の受け入れでしたね。予定時刻よりも早いな、分かりましたエレベーター前まで迎えに行かせます」    社の内線を切った森は部下の一人に声をかける。 「忙しいところすまない。今年の新入社員、研修を終えて今日から職場配属だった。すっかり忘れてたよ」 「えっ! 先輩来週って言ってませんでした?」 「すまんっ。来週は俺の結婚記念日だった」 「なんですかそれっ」  慌ただしい仕事を中断し、突然手渡された社の封筒の中には配属が確定した新人の手続き書類と、本日の業務資料が納められていた。 「あっ、中にフロア専用のICタグ入っているから渡してあげて。それ無いとフロアの中に入れないからエレベーター前で待たせてる」 「えっ、ちょっ、ちょっと僕が対応って、資料何も目を通してないのに。森主任の仕事でしょっ、逃げないでくださいよ」  森は五歳になった愛娘の写真を手に、後輩社員に告げる。 「今年の新人、女子社員一名配属だそうだ。素敵な出逢いがあるといいでちゅね」  愛妻家の森は愛娘の写真を左右に振りながら、彼女のいない独身社員を挑発していた。 「まったく、娘さんの写真見せられたら怒る気にもなれませんよ」  真っ白いワイシャツの上に黒のジャケットを着こむと、分厚い封筒を手に後輩社員はエレベーターホールへと急ぎ足で向かう。 「あっ、晴っ。 第二会議室開けておくから、そこ使って――」  晴は左手を軽く上げ理解した合図を伝えるとフロアの外へと消えた。
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