― 最終章 ― 

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 急ぎ足で歩むエレベーター前へと向かうフロア通路は、まだ新しいせいか床から伝わる感触はフワフワと心地良い。  エレベーター前で姿勢を正し待ち受ける二名の新入社員。晴は軽く頭を下げ挨拶を交わす。 「同じフロアで仕事をする事になる五十嵐晴です。宜しくお願いします」 「よろしくお願いします」  意識などしないと言えば嘘になるだろうが、目の前で挨拶を交わし顔を上げ表情を見せた新人女子社員はとても綺麗な女性で、晴は恥ずかしさのあまり思わず視線を逸らす。 「ごめんね。段取り悪くって、実は主任が一週間勘違いしてて――」 「えっ、本当ですか?」  不安そうな眼差しを向け問いかける男性社員に晴は笑顔で答える。 「うんっ。本当!って、そんな恥ずかしい本音も隠さず言い合える素敵な部署だから、肩の力を抜いてリラックスしてくださいね」  極端な緊張感から解放されたのか、新入社員の硬い表情に微笑みが浮かぶ。 「このフロアは特にクライアントの情報漏洩に注意を払っているから、この専用タグが無いと室内に入れません。なのでICタグの管理は各自責任を持って確実に行う様に――」 「はいっ」  優しさと厳しさのメリハリをキッチリとつけながら、晴は一人ずつフロア専用ICタグを手渡すことを告げる。 「受領書はあとでサイン頂くので、受け取った方から順番にフロアに入って直ぐ左の第二会議室に入ってください」 「はいっ」  指示を口にする都度、素直に返答する新人の姿勢に晴の心もどこか凛とする。 「野口健さん」 「はい。ありがとうございます。どうぞよろしくお願いします」 「こちらこそ」 「ピッ」  受け取った新入社員は一礼するとICタグをかざしフロアへと入室してゆく。  電子音が耳に響いた後、封筒の一番奥へと潜むカードを取り出し、晴は手にしたICタグに綴られた新入社員の名を口にしようとした瞬間、見覚えのある名前に時が止まる。 「……」  晴の瞳に映るその名は―― 『七瀬(ナナセ) ……、 ……和花(ナゴミ)
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