― 最終章 ― 

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 ― 午後十九時 岬坂公園 プラネタリウム施設前 ―  入口前でまるで挙動不審者の様に左右を見渡しキョロキョロ蠢く一人の男。 「晴っ、何やってるの?」 「あぁっ、いや、その、バレーボールが飛んでくるかなって……」 「もうっ、いつまで子供扱いしているんですか」  晴は照れくさそうに素直にゴメンと告げた。  施設入口に掲げられたスケジュールには、十九時三十分から本日最終の開演時間が記載されている。 「晴、覚えていますか? あの頃交わした約束を――」  まだ、建設途中の施設へと二人きりで入り込み、晴が告げた完成後に和花を誘う約束。 「勿論、ちゃんと覚えてる」 「心配したんだよ。何も連絡くれないから、死んだと思ってた」  二人が最後に書物を完結された後、自らの死を悟った晴は姿を消した。主治医に相談し誰にも告げる事無く、紹介を受けた末期患者を受け入れてくれる病院と併設された終末期医療である治療困難や病状の回復が見込めない患者を対象とした医療介護ターミナルケアへと入所していた。 「まだ高校生の君に負担は掛けたくなかった」 「一つ聞いていい。 あの時、私の事を誘ったのは、ここが晴のクライアント先だったから? それとも――、デートのお誘い?」 「あの時は、そんな不純な気持ちじゃなくて、社会勉強の為にも、ただ君に見せたかったから」 「ふ―んっ。じゃあ、今は? 私もう二十三歳になったんだよ」  下から顔を覗き込む様に、和花は上目遣いで晴の瞳に視線を注ぐ。  意識せずともあまりにも女性的に変化した彼女の行動と容姿に晴は思わず頬を赤らめた。 「今は……、あの頃と比べものにならない程、綺麗になった」  晴は心に秘めた想いをそのまま口にして告げた。  和花は嬉しそうに微笑みを浮かべると更に詰め寄る。 「じゃっ、今夜はデートのお誘いだねっ」  晴はあの頃と変わらない和花の優しさとあたたかさを思い出したのか、ポケットに隠し入れた二枚のチケットを取り出すと和花にそっと手を差し出す。 「七瀬和花さん、今夜僕とデートしてください」 「晴っ!」  和花はチケットを握りしめた晴の手に触れると、そのまま彼の胸の中へと飛び込む。月明かりに照らされた二つの影は、一つの重なりとなる。
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