― 最終章 ― 

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 ― プラネタリウムホール内 ―  平日の最終公演ともあってか、広いホール内にいたのは晴と和花の二人。 自由席で二人が腰を下ろしたのは、互いに申し合わせた訳もなく、あの時と同じ座席を選び着席していた。  開演時間定刻となり、ホール内の照明は更に落とされ暗闇の空間には、有名女優のナレーションが響き天井には煌びやかに輝く星空が現れた。  心地よい冷房の風とムードある雰囲気の音楽を耳に、和花は晴の左手をそっと握りしめた。  二人を包み込むオーロラの神秘的な輝きを目にした時、和花はあの頃を思い出したのか瞳を潤わせる。 「晴……、私、本当に死んだと思ったんだよ」  最後に目にした、細く頬の痩せこけた彼の姿を思い出したのか、涙声で和花はそう呟いた。 「僕にも分からない奇跡が起こった」  晴はそう口にすると、和花に語り始めた。  入所していた医療介護ターミナルケアでは、余命一週間の患者として受け入れられていた晴。ところが彼の容態はその三日後急変する。食欲旺盛となりまるで別人の様にあらゆる数値は改善され筋力、肌褐色も激変する。その状態の変化を見守る中、既に彼の余命宣告期間を過ぎ、更に一週間後にはジョギングを始める程の恐るべき回復を果たしたのだ。  人体の変化に対し併設した総合病院により脳内MRI等のあらゆる検査を施したが、医師が驚愕する検査結果が現れる事となった。 「脳内、悪性腫瘍完全完治――」  そのあり得ない事態に、彼はその後も数ヶ月間病院へ留まり様々な検査を受ける事となったが、彼が完治した理由は不明。医学的に説明がつかないまま、退院となっていた。 「奇跡的な社会復帰となり、また森先輩へ連絡したらいつでも戻ってこいって……」  その事実を晴の口から直接耳にした和花は、堪えきれず涙を零した。 「間違いなく僕は死にかけていた、『赤の書』や『青の書』へと綴る事の出来なかった生きる望みが一体どうやって叶ったのか、正直自分でも分からないんだ」  またいつ突然再発するかも知れない恐怖に、晴はこの五年間怯えながら暮らしていた。  プラネタリウムは終盤となり、ナレーションは優しく伝える。 『ここからは、音やナレーションの無い静かな星空でお楽しみください』  パッ! と暗闇が広がる中、一筋の流れ星が輝きを放つ。二人きりの星を眺める静かで贅沢な時間。伝わるのは互いに絡めた指先のぬくもり。  二人はあたたかな幸せを心の奥に感じ始めた時、ホール内に聞き覚えのある声が響いた。 「グゥフィヒィヒッヒッ――」 「ハッ……」 「今の声っ!」
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