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第一章 ― 朔(新月)―
夏休みを目前に岬坂高校職員室では一人の少女が担任女教師と向き合っていた。
「和花、部活もいいけど今の成績だと進学難しいよ。特に社会、赤点もう三回目でしょ。参ったなぁ」
参ったと言いたいのは私の方だと深いため息をつき、何度も頭を下げる。勉強が嫌いな訳ではなく、ただ今は全国制覇に向けバレー部の練習に全てを捧げたい思いが何よりも強かった。
バレー部顧問の古賀先生、担任が部活顧問故の甘えがあったが、今度ばかりは見逃せないらしく夏の合宿まで部活参加禁止の想定外の厳しい言葉を宣告された。
「えっ?!」
「えっ? じゃないっ!」
そんなやり取りの中、私を窮地に追い込んだ張本人である社会科担当の武田先生が優しく微笑みながら歩みよる。
そう、その優しさが私をダメにするのだ。何をしても怒らない、ゆったりとした大人の落ち着きに洗脳され、勉強の優先順位は後回しへとここでも甘えが出てしまう。
『だって、赤点でも怒らないから――』
捨てる神有れば拾う神ありと言うべきなのか、武田先生は二人の会話に割り込み一つの提案を伝える。
「古賀先生――、すみません。盗み聞きしようとした訳では無いのですが……、社会の赤点の件ですよね?」
「あっ、はい。うちの七瀬がまた赤点だったと――、本当に申し訳ございません」
まるで母親の様に担任の古賀は和花の代わりに何度も頭を下げる。
「あぁ、先生やめてくださいよっ。実は、今回テストも難しかった様で平均点もかなり低く、ここだけのお話し赤点の生徒数も多くて。問題を難しくし過ぎたかな」
武田は頭をかきながら赤点となる点数四十点を三十五点へ引き下げる方向での検討を校長へ相談、たった今その了承を得て来たところだと語る。
「ただ点数上の繰り下げではなく、三十五点以下の生徒には追試を、そして赤点を免除となる三十五から四十点の生徒に対しては、レポート提出による点数加算を検討しています」
「レポート?」
教師二人の会話に喰いついて来た和花は、なんでも調べて書きますと声を上げる。
「それでは、対象の生徒達にもこのプリントをお配り頂きますよう宜しくお願いいたします」
部活参加の手掛かりを掴んだ和花は嬉しそうにプリントを手に早速与えられたレポートテーマに目を向ける。
『古代文明に関しテーマを決め独自視点での見解を示すレポート』
「……、何これっ。
やりたくないっ」
思わず呟いた言葉を耳に二人の教師は仁王立ちで睨みつける表情を目に、和花は両手をあげて降参する。
「和花、レポート提出が終わるまで部活は禁止! ちゃっちゃと仕上げなさいよっ」
「はぁい」
この些細な出来事が後にあの書物との出合いへと繋がる運命の始まりだった。
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