第一章 ― 朔(新月)―

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 帰り道、駅前にある書店に立ち寄る和花(なごみ)が手にしたのは、古代文明にまつわる書籍の数々。どの本も手にすると重く専門書故の価格に思わず言葉を放つ。 「えっ、五千円もするの?!」  静な店内に響いた自らの声に視線を向ける顧客の気配から逃げる様に店を出た。 『お小遣い五千円なのに、あんな本に全額出せないよぉ』  和花はあのプリントを手にした直後、校内の図書室へと出向いていたが武田先生は事前に自らのクラスの生徒には口頭で情報を洩らしていたのだろう。既に図書室に置かれていた古代文明関連の書籍は武田のクラスの生徒で貸し出しを終えていた。 『市の図書館、今からだと間に合わないなぁ。明日寄るしかないかっ』  そう脳裏で考えながらも心は納得していないのか、部活参加に燃える和花は持ち前のバレー部で鍛えたレシーブをする様に、窮地のまま終わらせたくない悪あがきが行動として現れていた。  華やかな駅の表通りと異なる薄暗い駅高架下の裏通り。電車が通過する度にガタガタと店先に振動が伝わり耳障りな音が響く。怪しげな店が多く、すぐに故障する腕時計や偽ブランドのバック等、外国人により違法販売されている。警察も取り締まりを行っているが店が潰れてもすぐに新しい店がオープンを繰り返していた。  日が暮れると通りには赤提灯が灯る。立ち飲み屋の多くが開店を始め女子高生の和花が制服でウロウロする様な場所ではない事は確かだったが、それでも譲れない程に和花の決意は固かった。 『おかしいなぁ。確かこの通りに古本屋さんがあった筈なんだけど、閉店したのかなぁ』  何年も前の記憶を頼りに足を進めるが、目印となる真っ赤なポストの前に確かにあった古本屋は人生相談と書かれたタロット占い店へと変わっていた。 「ダメかぁ、もう二年も前だったからなぁ」  肩を落とし止む無く通りを奥へと進み表通りへと出ようとした時、高架下の奥から抜ける道幅一メートル程の細い路地に視線を奪われる。 「えっ、こんな道あったかな?」  和花は身を乗り出し覗き込んだ道の奥には、昭和の床屋さんの店先でクルクル回る看板の様に古本と綴られた文字が回転する姿を確かに目にした。 「あっ! 古本屋さんっ」
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