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「あぁ、そこらへんは爺さんと婆さんが何とかしてくれるってさ。……な、サマンサ。本当に頼むよ。爺さんと婆さんは本当にいい人たちなんだ」
……この人にそんなことを言わせるなんて、本当にいい人なのだろうな。そう思うけれど、やっぱり私が後宮入りできるとは思えない。
(……今の後宮には、確か百人程度の妃候補がいるのよね)
今の後宮には百人程度の妃候補がいる。後宮で一年間お勤めを果たせば、実家に帰ることが出来るという制度もあるけれど、ほとんどの令嬢は王子妃を目指しているため、後宮残るのだ。その結果、後宮は年々大所帯となってしまい、増えることはあっても減ることはほとんどないのが現状。
(ま、王子妃に確実になるだろうっていうのが、『後宮の五大華』だって言われているけれどさ)
――後宮の五大華。
それは、見た目麗しい五人の妃候補のことである。教養もあり、容姿もいい。そして、性格もいい。一部の王子様は、彼女たちに入れ込んでいるという噂さえある。だから、そんな彼女たちが王子様の妃になるのは確実だろうとも言われている。まぁ、王子様は九人いるわけで、五大華が全員王子妃になったとしても、まだ四人いる。そのため、虎視眈々とその残りのチャンスを狙っている妃候補が多いこと。
「な? サマンサはゆっくりと過ごしてくればいいだけだ。別に王子妃になってこいなんて言っているわけじゃない。のんびりと後宮で過ごして、一年間問題を起こさずにそこにいればいい」
……なんだか、それだけを聞くととてもいい場所みたいよね。いいや、全然いい場所じゃないのだけれど。でも、少しだけ心が揺らいできたかも、しれない。
(そうよねぇ。まぁ、衣食住は保証されているし、のんびりと過ごすのも……悪くはない、かも)
私は仕事が好き。女官としての仕事に誇りを持っている。でも、婚約を解消されたことで、ちょっとだけ職場にいにくいのよね。なんというか、腫物のように扱われているというか……。あと、マーガレットさんと純粋に会いたくない。
「……はぁ、分かったわよ。一年間お勤めを果たしてきます」
だから、私はそう言葉を返した。その瞬間、父親の顔がぱぁーっと明るくなる。はぁ、本当に私はこの人のこの笑顔に弱いのよね。そう思いながら、私は目の前にある冷めてしまった紅茶を飲む。まぁ、男手一つで育ててくれた父親への恩返しだと思って、頑張ってくるか。
(それに、王子妃を目指さなくてもいいし。スローライフもとい、ニートライフを満喫してこよう)
私は、そう心の中で決意を固めた。
こうして……私は、リベラ王国の王宮に作られている後宮へと、入ることが決まったのだった。
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