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「……貴女は、今、誰のことを考えていますか?」
「それ、は……」
ノア様に優しくそう問いかけられるけれど、私は答えることが出来なかった。だから、私は柄にもなく俯いて「すみません」と謝ることしか出来ない。こんなの、私じゃない。分かっている。分かっているけれど、こうすることしか出来ない。だって、悪いのは私だから。
そんな私に呆れられたのか、ノア様は「はぁ」とだけ静かにため息をつかれた。それを聞いて、私は尚更何も言えなくなる。不快な気分に、させてしまった。これじゃあ、後宮を追い出されても何も言えない気がした。はぁ、お金……。
「……どうしてなんでしょうねぇ」
そんな声が頭の上から降ってきても、私は反応をすることが出来なかった。なんで、なんて問われても答えられない。だって、私自身もよくわからないから。何故、私の心の中をハイデン様が支配しているのかが、本当のところ私もよくわかっていないのだ。ただ、目を付けられて怯えているのだということだけは、分かる。
「なんだか、キャラじゃないですよね、俺も、貴女も。俺、もっとのほほんとした雰囲気じゃないですか。……なのに、どうしてでしょうね。サマンサ様相手だと、ちょっと余裕がなくなるというか……。まぁ、簡単に言えばそれだけ俺は貴女を気に入っているということなのでしょうが」
ノア様は、それだけをおっしゃると私の手首を掴まれた。それに驚き、私が顔を上げればそこには私が見たこともないほど、真剣な表情のノア様がいらっしゃって。その眼光は何処か鋭くて、刺されてしまいそうだった。だから、私は息をのむ。それは、恐怖からなのかよくわからなかった。
そんな私を見下ろされたノア様は、ゆっくりとその目を細められる。その細められた目からは、感情が一切読み取れない。でも、何故か視線が逸らせなかった。これが、王子様が醸し出す迫力というものなのだろうか。
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