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「……バカみたい。あーあ、あいつらの上に魔物でも降ってこないかなぁ。ついでに喰ってくれたら万々歳」
そうぼやきながら、私は王宮の廊下を歩く。
私、サマンサ・ディアスはこのリベラ王国で王宮勤めの女官をしている。あ、女官には王宮務めと後宮勤めの二種類があるのだ。
幼い頃に母親を病で亡くし、冒険者業をしている父親の手一つで育ててもらった。とはいっても、父親の職業は冒険者。家にずっといるわけではない。そのため、私は日々のほとんどを三つ年下の弟と過ごしてきた。そんな弟もつい先日魔法の研究機関に就職し、私も結婚が決まって……みたいな感じだったのに。まさかの婚約解消である。ありえない。
「あー、もうっ! 父さんたちになんて報告すりゃあいいのよ!」
半ばやけくそになりながら、そう叫ぶ。父さんが私の結婚を一番喜んでくれていたのに。弟も喜んでくれていたのに。「姉さんが幸せになれるのだったら、僕も嬉しいよ」なんて可愛らしいことを言ってくれていたのに。あ~、慰謝料をたっぷりと請求すればよかったわよ。
「……はぁ、何を言ってもどうせ無駄よね。やめたやめた。女は切り替えが大切。これからの恋人は仕事よ。目指せ、王宮務めの女官長!」
そう言いながら、私は今夜はやけ酒をすることに決めた。酒場にでも行って、久々に好き勝手飲もうかなぁ。どうせだったら、同僚でも誘ってみるか。あ、もちろんマーガレットさんは却下。あんな人の顔、見たくもないわ。
「……どこに行こうかなぁ」
気分を切り替えて、私は仕事が終わった後にどこの酒場に行こうかと考えていた。
この時の私は、この婚約の解消が私の運命を大きく変えてしまうなど――想像も、していなかった――……。
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