女官、自らの出自を知る

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 ちょっと待って。理解が追いつかない。だから、私はそんな間抜けな声を上げてしまった。母親が貴族だった? それも、伯爵家の次女? 何よ、それ。いったい何の冗談? 今日は嘘をついていい日じゃないわよ? そう思ったけれど、父親のまっすぐな目を見ていると、それが冗談じゃないということはすぐにわかって。いや、けど、いきなりどうしてそんなことを……。 「母さんの出自はわかったわ。でも……何故いきなりそんなことを言うのよ」  だから、私はそう言って父親を見据える。すると、父親は露骨に私から視線を逸らした。こりゃあ、何か言いにくいことがあるな。そう判断して、私は父親を見つめ続ける。もうこうなったら根競べだ。そんなことを考えながら私が父親の顔を見つめ続けると、父親は「はぁ」と露骨にため息をついた。これで、私の勝ちだ。 「いやな、母さんの実家から連絡があったんだ。……それで、いろいろと実家が危ういということらしい」  その後、父親は渋々母親のことを教えてくれた。というか、母親本人のことじゃなくて、母親の実家のことがメインだけれど。  私の母親はとある貧乏伯爵家の次女だったらしい。母親は貴族だったけれど、類まれなる魔法の才を持ち、冒険者業を始めた。その時に父親と知り合って結婚。私と弟が生まれたそうだ。母親の実家は、母親が冒険者業をすることをあまりよくは思っていなかったそうだけれど、それでも実家が助かっていたことは確かだったので、黙認していたということらしい。母親亡き後も、父親はお金を母親の実家に入れていたそうなのだけれど……。 「……つい最近な、お前の爺さんが倒れた。それで、家が回らなくなり始めたらしい。元々、母さんの実家は貧乏だ。それに合わせて、ここ数年の大きな嵐が合わさり、伯爵家は没落寸前らしい」 「そうなのね」  そう言われても、何もピンとこない。だって、私は幼い頃から冒険者の娘としてしか育っていない。貴族のことなんて、あまりにも知らなすぎる。そりゃあ、女官だから後宮に来ていた令嬢たちのことはある程度知っているけれどさ。まぁ、わがままな人が多いよね。しかも、醜い嫉妬がそこら中に渦巻いている。嫉妬と関係ないのは、圧倒的な権力を持つ「後宮の五大華」と呼ばれている、王子様の妃候補筆頭ぐらいじゃないだろうか。
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