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思えば、友達規制法なんて気にしたこともなかった。それなりに友達はいたし、それを失うことなんてなかったからだ。
もちろん、これからも友達を失うことなんてあるはずもないと思っていたし、仮に失ったとしてもそれは双方が納得できるほどの関係だった場合の話だと思っていた。
だから、小菅友海の名前が古谷の免許証から消えた時、古谷の世界と小菅の世界とでは成立しない世界が現実であることを突きつけられたような気がした。
小菅友海の名前が古谷の免許証の友達記載欄から消えたのに気づくことができたのは、もちろんこの記載欄で最も古くから記載されていたからに他ならない。
自分の免許証のすっぽりと抜けた左上の空白をみた。自分の新しい友達が友海のことを上書きしたことではないことから、友海の免許証では自分の名前が他の誰かの名前に上書きされたのだと悟った。
この上書きは三ヶ月に一回行わなければならないことになっているため、この三ヶ月の間に古谷は友海の新しい友人に抜かされたことになる。
友人は、出会う時期によって決まるものじゃないことを痛感する。
しかし、不幸中の幸いがこのシステムにあることを古谷は知っていた。
それは、このシステムは本人の意思とは関係なく自動更新される所にある。
つまり、彼女が意図して古谷を外しているわけではないかもしれない。
そんな僅かな頼みの綱を持ってなお、かつて友海の名前が記載されていた頼りない免許証を片手に儚い希望を持ち続けようと強がった。
名前が消えてしまって初めて追いかけたいという気持ちが強くなる自分に古谷は嫌な自分を見た気がした。
追いかけたいと思わせたのは、名前が上書きされると、その人は上書きされる前の相手のことをじわじわと忘れてしまうということを古谷は知っていたからである。
自分だけに彼女が残り、彼女の中には何も残らない。そんな日がくることが恐かった。
友海が自分のことを忘れはじめ、最後は彼女にとって何者でもなくなってしまうことに思うと胸がきゅっと熱くなった。
その日を境に、忘れ離れていく友海を追い求める日々が始まった。
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